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第21回共生進化機構先端セミナーをオンライン開催しました。

ネズミのみならずヒトの行動や情動にも影響を与えるといわれる寄生原虫トキソプラズマについて、西川義文博士(帯広畜産大学)にご講演いただきました。

講演要旨:寄生生物は基本的に宿主の体内あるいは体表を生活の場とする生き物であり、宿主が存在しなければ生存することができない。寄生生物は特徴的な生活環を有しているものが多く、その独特な寄生戦略の一つにホスト・マニピュレーションという現象がある。我々は、宿主を操る寄生虫としてトキソプラズマ(Toxoplasma gondii)に着目し研究を進めている。トキソプラズマはネコ科動物を終宿主とし、ヒトを含めたほぼ全ての温血動物を中間宿主とする偏性細胞内寄生性原虫である。世界人口の約3分の1が本原虫に感染していると試算されており、最も感染の拡大に成功した病原体といえる。トキソプラズマが中間宿主に感染すると、虫体はその宿主の脳内や筋肉へ移行し、やがて休眠状態のシストを形成して慢性感染へ移行する。休眠状態の虫体は免疫系の正常な宿主では病原性を示さないが、宿主の生涯にわたり感染を持続させることができる。すわなち、本原虫に感染したヒトや動物の脳内や筋肉には、トキソプラズマが終生寄生していると考えられる。トキソプラズマの慢性感染では臨床症状を示すことが稀であるため、感染による中枢神経系への影響は軽視されてきた。しかしここ数十年の研究により、トキソプラズマの慢性感染がヒトの精神疾患の発症リスクを高めること、げっ歯類の行動を変化させることなどが報告されている。今回、トキソプラズマ感染が宿主の脳機能におよぼす様々な影響について、我々が得た知見をもとに紹介したい。