ニュース

第20回共生進化機構先端セミナーをオンライン開催しました。

寄生蜂による宿主ショウジョウバエの生理・発生操作に関する最新知見について、丹羽隆介博士(筑波大学)にご講演いただきました。

講演要旨:
 寄生蜂は、その生活史の中で、他の宿主生物に寄生する時期を持つハチ目昆虫である。世界に生息する生物種の半分が昆虫(約95万種)といわれる中で、寄生蜂はこのうちの20〜30%を占めるとも推計されており、多様性において現生動物の中で最も繁栄した群であると考えられている。寄生の成功のために寄生蜂は、宿主に様々な毒を注入することで、免疫防御機構を巧妙に逃れ、かつ宿主資源を搾取する。しかしながら、生活環の特殊性や試料サイズの小ささにより、寄生蜂の毒の作用の分子メカニズムの研究は未だ大きく立ち後れている。
 我々は、遺伝学に優れたキイロショウジョウバエ Drosophila melanogasterと、これを宿主とする内部寄生蜂ニホンアソバラコマユバチ Asobara japonicaを用いて、その毒成分の同定と寄生の分子機構の解明を目指している。ニホンアソバラコマユバチの毒は、キイロショウジョウバエ幼虫への麻酔活性、および宿主幼虫の免疫系血球細胞やその他の一部の組織の細胞に対するアポトーシスの誘導活性を有する。しかし、これらの現象を引き起こす毒の正体は不明であり、これらの毒が宿主のどの細胞に作用し、そしてどのシグナル伝達経路を撹乱するのかも研究が進んでいない。本発表では、寄生蜂毒の特定に向けて我々が行っているゲノム解析、トランスクリプトーム解析、プロテオーム解析、および生理遺伝学的実験の現状を紹介する。