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第17回共生進化機構先端セミナーをオンライン開催しました。

ゴール形成の分子基盤に関する研究で知られる平野朋子博士(京都府立大学)にご講演いただきました。

講演要旨:
ある種の昆虫,虫こぶ誘導昆虫は,自身の住居や餌場獲得のために植物に誘導する『虫こぶ』を形成する.「虫こぶ」は,最外層にリグニン化した堅い二次細胞壁が発達し,内側に幹細胞を形成し,この間を維管束が張り巡らせ,中央に昆虫の住む空洞がある,という4つの特徴的な構造をもった,秩序のある特殊な器官である.
このミステリアスな「虫こぶ」を分子生物学的に解明するため,私たちは,まず,組織染色,RNAseq解析,in situハイブリダイゼーションなどの解析を行った.その結果,虫こぶ器官は,花器官と果実形成の発生プログラムを部分的に使用することで形成されることを証明した.つまり,虫こぶは,葉が脱分化後,元の葉とは全く異なった果実を応用した器官として再分化して出来上がったと想定される.
次に,私たちは,虫こぶ形成因子を探索する試みを行った.ここで,虫こぶ誘導昆虫の破砕液(虫液)を,モデル植物シロイヌナズナに作用させると,虫こぶ様構造が形成されることを発見し,シロイヌナズナを用いた虫こぶ形成メカニズムを分子生物学的に解析する新手法, Ab-GALFA(Arabidopsis-based Gall Formation Assay)法を開発した.
続いて,RNAseq解析,Ab-GALFAのコンビネーション解析と,in silicoの解析を行い,虫こぶ形成因子として,酵母から,動物,植物まで広く保存されたタンパク質であるCysteine-rich secretory proteins, Antigen5, and pathogenesis-related 1 proteins (CAP),カテプシンBタイプのシステインプロテアーゼ(CP), チオール基還元酵素GILTを同定した.
CAPCPGILTの3つの遺伝子を過剰発現させれば,虫こぶを形成しない植物シロイヌナズナでも,虫こぶ様構造を形成させることができることを確認している.また,CAPの特に保存性が高いアミノ酸配列22残基の合成ペプチド(CAPペプチド)含有培地で育てても,虫こぶ様構造を形成することがわかった.
さらに,私たちは,虫こぶを形成する植物ムシクサの芽生えや葉の断片を,CAPペプチドを含む培地で培養することで,上記4つの特徴をもつ完全な人工的な虫こぶの再構築に成功している. 現在,植物のもつCAPペプチドと,これに対する植物側受容体CAPRを同定し,これらの植物本来の機能を解析している.
本セミナーでは,これまでの試みと進捗を紹介する.