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第16回共生進化機構先端セミナーをオンライン開催しました。

昆虫の性決定等に関する研究で知られる勝間進博士(東京大学)にご講演いただきました。

講演要旨:共生細菌であるボルバキアは昆虫の60%以上に感染しており、その宿主制御の巧みさも相まって「最も成功した寄生者」と言われている。ボルバキアは、オス殺し、遺伝的オスのメス化、単為発生、細胞質不和合という4種類の性・生殖操作を行うが、これらのうち実行因子とその分子機構が解明されているのは、ショウジョウバエに感染するボルバキアwMelの細胞質不和合だけである(LePage et al., Nature, 2017)。オス殺しに関しては、同じくwMelから同定されたWO-mediated killing (wmk)が有力な候補因子として報告されているが(Perlmutter et al., PLoS Pathog., 2019)、その作用機序は解明されていない。私たちの研究室では長年にわたり、カイコの性決定遺伝子の同定を目指してきたが、2014年にW染色体上のpiRNAがメス決定因子であることを明らかにすることができた(Kiuchi et al., Nature, 2014)。さらにその発見をきっかけにして、ボルバキアがチョウ目昆虫においてオス化と遺伝子量補償を担うMasculinizer(Masc)をターゲットとしてオス殺しを引き起こしていることを証明した(Fukui et al., PLoS Pathog., 2015)。その後、いろいろな試行錯誤を経て、ついにボルバキアが持つオス殺し因子の実体を同定し、その作用機序を解明することに世界で初めて成功した。本発表では前半にカイコの性決定研究からボルバキア研究への流れについて、後半ではボルバキアオス殺し因子の同定プロセスやそのユニークな性状と作用機序について紹介し、今後の研究の展望についてディスカッションさせていただければと考えている。