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第14回共生進化機構先端セミナーをオンライン開催しました。

真核藻類等における細胞内共生の研究で知られる谷藤吾朗博士(国立科学博物館)にご講演いただきました。

講演要旨:
 共生体のオルガネラ化を伴う細胞内共生(*本発表では“狭義”の細胞内共生として呼称します)が、真核生物のさまざまな系統で起こったことにより多様な光合成生物が誕生した。一方、異なる生物同士が一つの生物として成立するには複雑な遺伝的出来事があったことは想像に難くなく、そのメカニズム解明は中心的課題の一つである。
 本発表の前半部は、ヌクレオモルフ(Nm)をもつ生物のゲノム比較の成果を中心に紹介する。Nmは葉緑体(プラスチド)の由来となった真核生物の核の名残であり、ながらくクリプト藻類とクロララクニオン藻類からのみ発見されていた。他の真核-真核の多次共生生物(e.g., 珪藻など)でNmは発見されなかったため、クリプト藻類とクロララクニオン藻類のNmは細胞内共生により共生体のゲノムが縮小する過渡期にあると想定された。よってこれら2系統の藻類は細胞内共生成立初期におけるゲノム挙動を知るモデルとされた。そこで発表者らは複数種のNm及び核の比較ゲノム解析を行った。結果として、クリプト藻類とクロララクニオン藻類では宿主・共生体の起源が全く異なるにもかかわらずNmゲノムに共通した構造があることを見出した。一方で、核ゲノム解析からは“最近の”Nmゲノムから核ゲノム遺伝子移動が起こっていないことから、事実上遺伝子の縮小が停止していることが示唆された。本発表ではこれらの結果から推測される、細胞内共生成立における初期進化でのゲノムの挙動について議論する。同時に、最近新たに発見されたNmをもつ渦鞭毛藻類について触れ、ヌクレオモルフ・バイオロジーの展望を紹介したい。
 後半部では、細胞内共生によってもたらされた“光合成以外”の機能に注目して紹介する。非光合成のプラスチドは、寄生性植物やマラリア原虫、珪藻類などで多くの例がある。それらの存在が示す通り、プラスチドの主機能は“光合成だけ”ではない。発表者は非光合成のクリプト生物、Cryptomonas parameciumのプラスチドで、光合成能がないにも関わらず炭酸固定が起こっている可能性を掴んだ。培養実験と遺伝子発現解析、13Cトレーサーと質量分析の結果からその証拠を提示する。