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第8回共生進化機構先端セミナーをオンライン開催しました。

寄生虫による宿主昆虫の行動操作の研究で知られる佐藤拓哉博士(京都大学)にご講演いただきました。

講演要旨:
 通常、生物個体の形態や行動は、その個体の生存や繁殖に有利になるように制御されているという暗黙の仮定がある。しかし実際には、今日地球上に生息する生物種の約40%は寄生生物であり、すべての野生動物は少なくとも一種の寄生生物に寄生されていると言われている。野生動物にみられる多様な形態や行動の中には、寄生生物の影響を受けて表現されているものが多く存在する。この顕著な例として、寄生生物の中には、自らの利益(感染率向上)のために、宿主個体の形態や行動を改変―宿主操作―する種がいる。宿主操作は、どのような仕組みで達成され、自然生態系においてどのような意味をもつのだろうか?
 宿主操作の興味深い例として、寄生生物のハリガネムシ類は、森林や草原で暮らす宿主(カマキリや直翅類等)の体内で成虫になると、自らが繁殖をする水辺に戻るために、宿主を操って入水させてしまう。本発表では、ハリガネムシ類の宿主操作によって陸生昆虫が多数入水すると、それらが河川に棲むサケ科魚類の重要なエネルギー源となり、ひいては河川生態系の構造や機能に大きな波及効果を生むことを示した生態学的研究について紹介する。
 一方、ハリガネムシが多様な宿主を入水させることは100年以上も前から知られていたが、その仕組みの解明には至っていなかった。そうした中、我々は近年、ハリガネムシの一種(Chordodes formosanus)に感染したハラビロカマキリ(Hierodula patellifera)では、水面からの反射光に多く含まれる水平偏光への正の走性が高まり、入水行動に至ることを発見した。これは、寄生生物が、宿主の有する特定の光受容システムを操作することで行動改変を達成することを示す。本発表の後半では、昆虫の偏光視と寄生生物によるその改変について、これまでに分かってきていることを紹介する。それをもとに、ハリガネムシ類による宿主操作の分子・神経機構を解明するための今後の課題について、皆さんと議論したい。