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第7回共生進化機構先端セミナーをオンライン開催しました。

植物における寄生・共生関係の研究で知られる末次健司博士(神戸大学)にご講演いただきました。

講演要旨:
 共生というと、お互いがお互いを助け合う仲睦まじい関係性のように聞こえます。しかしながら、相利共生でさえ、お互いが搾取しあった結果、たまたま両方のパートナーが利益を得ているに過ぎません。つまり共生関係は、実際は緊張感に満ちた関係で、すきあれば相手を出し抜こうとしている状態です。実際に、もともと相利共生のパートナーであった生物に一方的に寄生するように進化した生物が沢山存在しています。例えば、送粉共生系では、綺麗な花を咲かせるものの、実際には蜜などの報酬を与えず、送粉者を騙して花粉を運んでもらう植物が多数存在しています。また菌根共生系を見渡すと、菌根菌に光合成産物を与えないばかりか、光合成をやめ逆に菌根菌から糖を含む全養分を搾取する菌従属栄養植物が存在しています。また進化的なスケールを考えずとも、環境条件に応じて損得のバランスが変動し、相利共生や寄生と一概に定義できないような共生関係も知られています。つまり寄生と相利共生は対立する概念ではなく、表裏一体で連続性を持つ存在なのです。
 私は、陸上植物をめぐる三つの普遍的な共生関係、すなわち送粉共生、種子散布共生、そして菌根共生に関心を持ち、研究を進めてきました。特に興味をもって研究を進めている光合成をやめた植物の共生関係を中心に、相利共生と寄生の狭間をたゆたう生物間相互作用の奥深さを少しでもご紹介できればと思っています。

参考文献:
1. Suetsugu K*, Haraguchi T, Tayasu I (2022) Novel mycorrhizal cheating in a green orchid: Cremastra appendiculata depends on carbon from deadwood through fungal associations. New Phytologist, in press.
2. Suetsugu K*, Matsubayashi J (2021) Evidence for mycorrhizal cheating in Apostasia nipponica, an early-diverging member of the Orchidaceae. New Phytologist 229: 2302–2310.
3. Suetsugu K*, Taketomi S, Tanabe A, Haraguchi T, Tayasu I, Toju H (2020) Isotopic and molecular data support mixotrophy in Ophioglossum at the sporophytic stage. New Phytologist 228: 415–419.
4. Suetsugu K* (2020) A novel seed dispersal mode of Apostasia nipponica could provide some clues to the early evolution of the seed dispersal system in Orchidaceae. Evolution Letters 4: 457–464.
5. Suetsugu K*, Matsubayashi J, Tayasu I (2020) Some mycoheterotrophic orchids depend on carbon from dead wood: Novel evidence from a radiocarbon approach. New Phytologist 227: 1519–1529.