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第6回共生進化機構先端セミナーをオンライン開催しました。

ミドリゾウリムシにおけるクロレラとの細胞内共生の研究で知られる児玉有紀博士(島根大学)にご講演いただきました。

講演要旨:
 ミドリゾウリムシ(Paramecium bursaria)という生物をご存知だろうか。ミドリムシ(Euglena sp.)と間違われがちだが、ミドリゾウリムシとミドリムシは全く別の生物である。ミドリゾウリムシは繊毛虫の一種で、細胞内に多数の緑藻クロレラが共生しているためそのように呼ばれている。ミドリゾウリムシとクロレラは細胞内相利共生の関係にあるが、まだそれぞれの細胞が単独でも分裂し増殖できる能力を維持している。そのため、クロレラを保持するミドリゾウリムシから人為的にクロレラを除去した非共生細胞を作成したり、ミドリゾウリムシから単離した共生クロレラを宿主外で培養したりすることが可能である。それだけではなく、非共生細胞と宿主外培養クロレラを混合するだけで、クロレラの再共生を誘導することが可能である。これらの理由により、1920年代からミドリゾウリムシとクロレラは細胞内共生の成立や維持機構を解明するための有用生物であると言われてきたが、クロレラ非共生細胞に取り込まれたクロレラがどのようにして共生を成立させるのかについては不明な状態が続いていた。
 2005年に演者らが初めてクロレラの再共生過程の全容を明らかにし、さらにその過程において重要な次の4つのプロセスの存在を明らかにした。1) クロレラ非共生細胞とミドリゾウリムシから単離した共生クロレラを混合してから3分後に、酸性小胞のアシドソームとリソソームが融合した宿主食胞内で、一部のクロレラが一時的に宿主消化酵素に耐性を示す。2) 30分以降に、宿主食胞膜の出芽によってクロレラが宿主細胞質中に1細胞ずつ遊離する。3) 細胞質中に遊離したクロレラを包む食胞膜が、宿主リソソーム融合を阻止する共生胞膜の一種であるperialgal vacuole (PV) 膜に分化する。4) クロレラを包むPV膜が宿主細胞表層直下に接着して安定化し、24時間後には宿主の栄養状態に合わせてクロレラが細胞分裂を開始して細胞内共生を成立させる。これまでに各プロセスに関する細胞生物学的現象の解明や、共生クロレラの有無による宿主ミドリゾウリムシのトランスクリプトーム解析などを行ってきた。近年ではミドリゾウリムシのゲノム情報も使えるようになり、世界中でミドリゾウリムシの研究者数が増加している。
 本セミナーでは、細胞内共生研究の材料としてのミドリゾウリムシの有用性や、これまでの研究結果、将来の展望等をお話させていただく。