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第3回共生進化機構先端セミナーをオンライン開催しました。

生態学におけるゲノム科学的な取り組みで知られる東樹宏和博士(京都大学)にご講演いただきました。

講演要旨:
 地球上では、多様な⽣物種が関わり合い、⽣物群集および⽣態系を構成している。⽣物群集レベルの現象を考察する際、研究の起点となるアプローチには、ざっくり分けて2種類あるように思われる。⼀つは、トップダウン的なアプローチで、群集全体の抽象的構造を仮定した上で、多種共存や群集安定性が議論される。もう⼀⽅のボトムアップ的なアプローチでは、2者間の競争関係や捕⾷-被⾷関係、寄⽣・共⽣関係等を起点として、群集全体へと研究対象の複雑性をステップアップさせていく形で議論が進⾏する。さらに、この2つのアプローチそれぞれに、理論と実証の2つの側⾯があり、研究を展開する上での重⼼が研究者によって異なる。
 2000年代に⼊り、トップダウン的なアプローチでネットワーク科学の応⽤が急速に拡がり、送粉共⽣系等の相互作⽤網のデータを掘り起こす形で⽣物群集の俯瞰的構造の記載が進みつつ、2者系の構造と群集全体の動態を結びつける試みがなされてきた。しかし、こうした研究においても、複雑な野外⽣態系に存在する多様な相互作⽤の中から特定のタイプを抜き出した群集のデータの「内側」で議論が終始している感があり、実際の⽣物群集内における多種共存や安定性に本質的に重要なしくみを解明できているのかどうか、よくわかっていない。
 そうした中、微⽣物⽣態系を対象とする研究が⾯⽩味を増してきている。微⽣物を主な構成要素とする群集内では、競争だけでなく、⽚利関係や相利関係、敵対的関係といった多様な相互作⽤を同時に観察することができる。さらに、ゲノム分析やメタゲノム分析のツールを利⽤することで、たとえ数⼗~数百種が対象⽣態系内に存在していても、各種の機能や、各種ペア間の相互作⽤を推定することもできるようになってきた。
 群集(⽣態系)全体の動態を俯瞰しつつ、最⼩単位の相互作⽤に関する構造を把握できるようになった今、多種で構成される⽣物システムに関する理解が⾶躍的に進んでいくと期待される。その先には、複雑微⽣物⽣態系で⾒いだされた⽣物群集の駆動原理が、動物や植物といったマクロな⽣物を含む⽣態系に適⽤できるかどうか、という挑戦が待っている。