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第1回共生進化機構先端セミナーをオンライン開催しました。

真核生物の起源と推定される難培養性の海底アーキアに関する研究で著名な井町寛之博士 (海洋研究開発機構)と延優博士(産業技術総合研究所)にご講演いただきました。

講演要旨:
 私たち人間を含む真核生物は、アーキア (古細菌) から誕生したとされており、海底に生息するアスガルドと呼ばれるアーキア群がその有力な候補と考えられている。しかしながら、これまで本アーキア群の培養株の報告はなく、細胞形態や生理生態を含めたその実体およびアーキアから真核生物への進化の道筋は不明なままであった。本セミナーでは世界で初めて培養に成功したアーキアMK-D1株の分離・培養、細胞・遺伝学的特徴、そして真核生物誕生の新仮説について紹介する。
 バイオリアクターと従来型の培養技術を組み合わせた戦略的な培養手法と12年に渡る試行錯誤を経て、海底堆積物からMK-D1株を分離することに成功した。MK-D1株は中温性の絶対嫌気性であり、増殖は極度に遅く、アミノ酸やペプチドを他の微生物と共生しながら分解し増殖する。MK-D1株は直径約550 nmの極小の球菌であり、その細胞内は他のアーキアと同様に単純で小器官は存在しない。一方で、増殖後期になると触手のような長い突起を細胞の外に形成し、多数の小胞を放出するという、細胞外に複雑な構造を作ることが特徴的であった。
 MK-D1株の完全長ゲノムを決定して分子系統解析を行った結果、MK-D1株はこれまで培養されている原核生物では最も真核生物に近縁であることが示された。加えて、そのゲノムにはこれまで真核生物に特異的なタンパク質とされていたアクチンやユビキチンなどをコードする遺伝子を数多く有することが明らかになっただけでなく、それらは細胞内でタンパク質として発現していた。さらに、MK-D1株および近縁なアーキア群と比較ゲノム解析を行った結果、最初の真核生物となった祖先アーキアはMK-D1株と同様にアミノ酸を利用し、他の微生物と共生しながら生育していたことが示唆された。
 MK-D1株の生理学的特徴とゲノム解析の結果およびこれまでの真核生物の起源に関連する研究結果に基づいて、真核生物誕生の進化説「E3モデル」を提案した。約27億年前に始まった大酸化イベントを契機に、嫌気性の祖先アーキアは酸素を解毒するために、ミトコンドリアの祖先となる好気性のバクテリアと共生を始めた。酸素濃度の上昇に伴い、その共生関係はより密になり、アーキアは突起と小胞を用いてバクテリアを細胞内に取り込んだ。その後、生物としての一体化が進み、最終的にアーキアが細胞の”操縦士”に、バクテリアが”動力源”となる真核生物細胞が誕生した。

参考文献:
1. Imachi H and Nobu MK et al., 2020. Isolation of an archaeon at the prokaryote-eukaryote interface. Nature 577: 519-525.