事例と成果

事例卒業生の活躍事例

「研究がしたい」という熱意に溢れた多彩な仲間と夢中で研究に取り組んだ3年間でした

名村 今日子 (なむら きょうこ)さん

京都大学大学院工学研究科 准教授

2006年京都市立堀川高等学校卒業
京都大学大学院工学研究科博士後期課程修了、博士(工学)
日本学術振興会特別研究員(DC1)、京都大学大学院工学研究科 助教を経て現職

※所属、肩書き、内容は掲載当時のものです。

01.現在の仕事や研究内容、魅力

マイクロメートルサイズの泡を自在に操りたい

電気電子分野で博士を取得した父の影響もあり、幼い頃から研究者になるのが夢でした。科学の本に囲まれて育ち、特に興味を持ったのがマイクロスケールの世界です。現在は京都大学大学院で、マイクロメートルサイズの泡(バブル)が持つ特性を明らかにし、その特性をさまざまな事象や分野に応用していく研究をしています。

皆さんもよく目にするもので普段は気にも留めていないかもしれませんが、実は泡についてはまだまだ分からないことが多く、扱いが難しいのです。例えば、次世代エネルギーとして注目されている水素を作る過程でも泡が発生しますが、化学反応の際に電極面を大量の気泡が覆ってしまうことで反応効率が下がってしまうといった課題があります。

また、近年はあらゆる製品が小型化・高性能化していますよね。スマートフォンも使い続けると発熱し、一定の温度を超えると壊れてしまいます。そのため、発熱を抑えたり放熱させたりする熱制御技術が極めて重要になるのですが、私がメインで取り組んでいるものに、熱源の周りで泡がどのように動くかについての研究があります。以前、熱を加えることで泡の周りにものすごく強い流れができることを報告し、数年後には泡を動かすことでそれをさらに凌駕する強い流れを作ることに成功しました。発見当初はその成果がよくわからなかったのですが、国内外の学会で発表した際に多くの方から「これ、新しいね」「とても面白い!」と興味を持ってもらえ、自信になりました。

身近な存在だからこそ、自由にかたちを変えて動く泡を自在に操ることができるようになれば、熱制御はもちろん、さまざまな分野に貢献できる可能性を秘めています。いずれ社会の最新技術に自分の研究が役立つ日が来たら嬉しいですね。

京都大学大学院の研究室で研究用光学系機器を扱う名村さん

京都大学大学院の研究室で研究用光学系機器を扱う名村さん

02.高校時代のSSH活動

科学好きな仲間と過ごした刺激的な日々

京都市立堀川高校のSSHの活動では、さまざまなフィールドワークに参加しました。滋賀県にある伊吹山の夜間登山、スーパーカミオカンデの見学、化石調査など、普通の高校生活ではできないような体験ができ、自分にとって大きな財産になりました。

京都大学の大学院生・研究生の方たちがティーチングアシスタントとして、SSHの活動をサポートしてくれたことも印象深いです。実際に京都大学の研究室を見学させていただいた時に現役の大学生たちと直接交流できたことで、もともと志望していた京都大学のイメージをより明確に描くことができました。

SSH独自の科目「探究活動」では、論文の書き方など研究の基礎となる手法を学ぶことができました。個人研究のテーマは「ピアノの音階の数とその必然性」。現在取り組んでいる泡の研究とは一見無関係に思えますが、音も日常生活における身近な存在という点で共通しており、この頃から今につながる視点が芽生えていたのかもしれません。

部活動では、SSHの一環として創設された自然科学部に所属していました。放課後はより自由に自分がやりたい実験に取り組むことができたので、私がUFOキャッチャーの工作をしている一方で、他の部員たちは粘菌を育てて観察していたり、フーコーの振り子実験を校舎で再現していたりと、全く異なる活動をしていることが多々ありました。

こうした仲間とともに、科学への興味をさらに深めながら楽しく充実した時間を過ごす中で、「研究という行いをこの先も続けていきたい」という思いが確固たるものへと変わっていきました。

修学旅行はニュージーランドへ ステイ中の体験をSSHの活動で発表

修学旅行はニュージーランドへ ステイ中の体験をSSHの活動で発表

03.SSHの影響

自らの興味・関心や考えを発信し認め合う

SSHの活動にともに夢中になって取り組んだ同級生の中には、同じ大学に所属している人もいます。研究分野や立場は異なりますが、同じ環境に身を置いている同世代だからからこそわかり合える存在で、時々一緒にランチをしながら近況報告をしています。

SSH指定校の堀川高校には「研究をしたい」いう強い思いがある、「私はXXが好き」「XXに興味がある」とはっきり言える個性豊かな生徒が自然と多く集まってきました。高校生の頃の自分にとって、誰からも咎められることなく「自分の興味・関心に従って行動しても大丈夫だ」と安心して研究に取り組める環境はとても居心地がよかったと記憶しています。

大学、大学院と進むにつれ、より自分と近しい研究範囲の中での出会いが多くなっていきますが、高校時代に自分の興味・関心とは全く異なる分野を探究している仲間と意見を交わしながら過ごしたことで、他の分野や研究者と積極的に関わることの重要性も理解することができました。今も学会などに参加する際には必ず、自分の研究をいつでも紹介できるよう資料等を持ち歩き、出会った人と情報や意見を交換して自らの研究に生かせるよう努めています。また、もともと実験は得意な方ですが、以前ほど十分に時間を確保することが難しくなった今でも、日々自分の手を動かして実験することを大切にして続けています。

私はごく自然に研究者の道を選びましたが、指導する立場になってみて、学生たちの中には他人の目を気にして自分の意に沿わないことにも同調したり、常に周りの人と同じでいようとしたりする人が意外と多いことに気づきました。進路など個人の行動選択に家庭や学校といった環境的要因が大きく関わっていると考えると、誰もが、偶然ではなく、自らの意識でそれぞれの興味・関心や自分らしさを大切にしながらいろいろな可能性・選択肢に触れられる学習環境はとても重要で、その一つとしてSSH指定校が果たす役割は今後ますます大きくなっていくのではないかと感じます。

高校段階では「XXを研究したい」「XXが好き」と明確に決まっていない人がいるかもしれません。でも、全く心配しなくて大丈夫です。高校生時代にノーベル賞級の研究テーマやアイデアを思いつく人はほとんどいませんし、高校生までの間に得られる情報は限られています。私自身、手を動かして工作することや、ものごとを探究する研究活動そのものが好きで、正直なところテーマ自体は何でもよかった。いろいろなことを食わず嫌いせずにちょっとずつ経験していくことを通じて、自ずと進む道を選び歩んでいったという実感があります。ですから、高校生の皆さんも怖がらずに、いいな、面白そうだなと思う方向に自由に突き進んでいってください。

名村 今日子(なむら きょうこ)さん

主な受賞歴

  • SPIE Optics + Photonics 2011, Best Student Presentation Award(2011年)
  • The 8th International Symposium on Surface Science 若手ポスター賞(2017年)
  • 日本表面真空学会学術講演会 講演奨励賞/新進研究者部門(2018年)

その他

(主な論文)

  • K. Namura, K. Nakajima, M. Suzuki, Quasi-stokeslet induced by thermoplasmonic Marangoni effect around a water vapor microbubble, Scientific Reports 7 (2017) 45776.
  • X. Zhang, R. Matsuo, Y. Yahano, J. Nishida, K. Namura, M. Suzuki, Configurable Vibrational Coupling in Laser-Induced Microsecond Oscillations of Multi-Microbubble System, Small 21 (2025) 2408979.

(主な競争的資金等)

  • 科学技術振興機構 創発的研究支援事業 北川パネル 「バブルアレイのマイクロ・ナノ構造化による新規熱輸送技術の創出」(2021~)研究代表者