事例と成果
事例卒業生の活躍事例
自分たちで決めた研究テーマでの受賞を糧に、今も未知の領域での新発見に挑んでいます
藤代 有絵子 (ふじしろ ゆかこ)さん
理化学研究所 創発物性科学研究センター(兼)開拓研究所
極限量子固体物性理研ECL研究ユニット 理研ECL研究ユニットリーダー
2011年山梨県立甲府南高等学校卒業
東京大学 工学系研究科 物理工学専攻 博士課程修了
理化学研究所 基礎科学特別研究員を経て現職
※所属・肩書き、内容は取材当時(2025年12月)のものです。
(掲載日時点:東京大学総合研究機構/物理工学専攻 准教授)
INDEX
01.現在の仕事や研究内容、魅力
極限環境の中で物質の新たな一面を見出す
東京大学大学院修了後、理化学研究所に所属し、2024年4月から若手研究者育成プログラム「理研ECL研究ユニットリーダー」として「量子物質単結晶を用いた極限環境下での電子機能探索」をテーマに研究を進めてきました。
物性物理という分野は大学院在学中から大きく変わりませんが、手法やアプローチを変え、今は超高圧環境でも常圧環境と同様の精密な測定を可能にする技術を用いて、従来の方法では到達できなかった新しい物質相を探索し、その性質を解明することに取り組んでいます。
昨今、AIの急速な普及によって世界の電力消費が爆発的に増加しています。私たちは、物質がもつ量子力学的な性質や機構を深く理解することで、エネルギー損失の少ない伝送を可能とする高温超伝導物質を実現し、また最終的にはそれを常圧でも実現するための指針を発見したいと考えています。
超高圧と聞くとプレス機など大規模な設備をイメージされるかもしれませんが、「圧力=力÷面積」ですから、ダイヤモンドの小さな面に均一な力をかけることで地球の中心とまではいきませんが、オーダーとしてはそれに匹敵する圧力を卓上で生み出すことができます。物質の合成においては、通常の圧力下では、元素の組み合わせと合成温度により、安定的な構造や組成はほぼ決まってしまいます。そこで、私は、通常では発現しない性質を持つ物質を生み出すことのできる一つのアプローチが「圧力」ではないかと考え、この手法を選びました。特に、圧力は物質を壊さずに原子間の距離を連続的に縮めることができ、電子間の相互作用を大きく変えることができるため、新物性発見の強力なツールとなっています。
物理の研究者というと、一般的にアインシュタインに代表されるようないわゆる天才が地下室にこもって研究しているというイメージがありますが、私はむしろその対極にいるタイプ。研究はチームで行っており、同僚や学生とわいわい相談したり、とりあえず手を動かして試行錯誤を繰り返したりしている時間が好きです。大きなゴールを目指して、小さな課題をみんなで解決していく過程が物性物理の実験の醍醐味だと感じています。また、物性物理は研究テーマを考える段階から、試す、結果を出すところまで少人数のスケールで取り組めるので、その点もこの分野ならではの魅力かもしれません。
最近、若手研究者としていくつか賞をいただいたのですが、受賞を機に母校や地元山梨県とのつながりが増えました。私の体験を参考に「私にもなれるかな」「研究者も楽しそうだな」と思ってもらえたらと、アウトリーチ活動にも取り組んでいます。
実験をしながら議論をする藤代さん
02.高校時代のSSH活動
独自の研究テーマで県内最優秀賞を受賞
母校の山梨県立甲府南高校では、SSH活動の一環として「物理宇宙部」「生命科学部」「数理部」「物質化学部」といった理科系の部活動が盛んに行われていました。そのうち私は「物質化学部」に所属し、部長を務めました。両親が研究者だったこともあり、幼い頃から研究者になりたいという夢を抱いていたものの、実をいうと入学時に興味を持っていたのは宇宙物理分野でした。化学にはむしろ苦手意識を持っていたのですが、「物質化学部に入ることで、逆に苦手を克服できるかもしれない」と思い、同部への入部を決断しました。
実験室にあるものを使って好きなだけ実験して良いという部の自由な環境が、研究の楽しさを教えてくれました。やってみたいことを生徒自ら提案するというスタイルだったため、例えば、青色と赤色の間で繰り返し色が変化するBZ反応用の水溶液を自分たちで作るなど、いろいろな実験を提案しては、あれこれ取り組んでいたのを覚えています。リクエストに応じて顧問の先生が必要な試薬や実験器具などを用意してくれたのですが、今考えるとこれもSSH指定校ならではの恩恵だったのだと思います。
大きな転機となったのは、部代表として出場した、県内の自然科学コンテスト「生徒の自然科学発表会」です。私たちのチームの研究発表テーマは「金属同士の衝突で響く音と、原子の結晶構造との関連性について」。“音”という日常にあふれたマクロな要素も、物質内部を分析するとミクロな世界とつながっているかもしれない、という興味がきっかけで両親や部員たちと相談して決めた思い入れのあるテーマです。このとき初めて自分で実験計画を立て、その計画に基づき構造の異なる金属材料を集めるなどして、それぞれの金属が持つ音の違いを調査しました。結果、この大会で最優秀賞を受賞することができました。それまで先輩たちが取り組んできた研究をそのまま踏襲するのではなく、自分たちで新たに決めた研究テーマの発表が高く評価されたことはとても嬉しく、自信にもつながりました。
SSHでは他にも、スーパーカミオカンデへの見学や外部講師の方を招いた講演会など、さまざまな経験をさせていただきました。
「生徒の自然科学研究発表大会」に参加し、最優秀賞を受賞(右が藤代さん)
03.SSHの影響
自らチャンスを掴みに行く積極性が大事
高校時代の刺激的な時間は、その後の研究活動に大きな影響を与えてくれました。例えば、自ら研究テーマを探す・実験計画を立てる・伝え方を工夫して発表する、という研究活動の一連の流れを高校時代にいち早く経験できたことは、大学の研究室に入ってからも自分の強みになりました。研究者として、今あらためて感じるのは、研究において最も難しく大変なのは、良い研究テーマを見つけること。研究プロセスそのものは今も高校当時と大きく変わらず、よいテーマさえ決まってしまえば、あとはもうみんなで協力して進んでいくだけだからです。ですから、高校生の皆さんにはぜひ、研究活動に限らず「自ら考え、計画して、実行する」経験を多く積んでおくことをお勧めします。この経験は、社会人になってもきっと役立つはずです。
また、高校生時代に音の研究を進める中で、地元大学の防音室をお借りする機会がありました。当時の私は割と引っ込み思案な性格で遠慮気味だったので利用を諦めていたのですが、母が後押しをしてくれて、お借りすることができました。そして「ダメもとでもまず動いてみる」という積極性が、実は研究者には何より大切だということを認識しました。ポスドク時代に圧力について学びたいと考えたとき、憧れの先生に直接請うことを初めは躊躇していたのですが、実際に訪ねたところ快く「教えますよ!」と言っていただきました。私もびっくりしましたが、やはりチャンスやきっかけは自分から作りにいかないとダメで、そのときは気にとめなかったことや何気ない出会いも数年後に生きるなど、キャリアを築いていく上で積極性は欠かせないものだと痛感しました。
誰も足を踏み入れたことのない領域に自らの足で踏み入り、そこで誰も想像すらしていなかったような新しい現象や物理の概念を発見して皆をあっと言わせたい、というのが今の私の目標です。とはいえ、研究は社会に理解され、支援されることが求められるため、SSHで科学についての理解と経験を積んだ人が研究以外の場で活躍することも、とても価値のあることだと考えます。SSHを通じて科学のネットワークが今後ますます広がっていくことを期待しています。
主な受賞歴
- 東京大学 総長賞(2018年)
- ロレアル-ユネスコ女性科学者日本奨励賞(2020年)
- 第4回羽ばたく女性研究者賞(マリア・スクウォドフスカ=キュリー賞)最優秀賞(2025年)
その他
(主な競争的資金等)
- 科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 さきがけ 量子物質研究領域「超高圧を用いた強相関電子系の量子相制御と開拓」(2025~)研究代表者



