大津局在フォトンプロジェクト

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総括責任者 大津 元一
(東京工業大学 大学院総合理工学研究科 教授)
研究期間:1998年10月~2003年9月

 

従来の光科学技術では光の回折によりその空間分解能は光の波長程度に制限されます(回折限界)。この限界の打破のために、本プロジェクトは近接場光を研究し、その応用としてのナノフォトニクス(近接場光を媒介としたナノ寸法物質間の局所的電磁相互作用を利用してナノ寸法の光デバイスを作製し、動作させる技術)とアトムフォトニクス(近接場光を使った原子操作技術)を開発しました。まず量子力学的な物理量をも矛盾なく記述できる近接場光理論を構築しました。次にナノフォトニクスではナノフォトニックスイッチなどのデバイス、ナノ光化学気相堆積などの加工法などを開発しました。さらにアトムフォトニクスでは原子の偏向、誘導、捕獲、移動、解放などの方法を開発しました。
 これらの成果は光科学技術のパラダイムシフトを実現すると供に、ひろい応用を通じて21世紀の高度情報化・高度福祉社会に貢献するところが大きいと期待されます。

成果

近接場光理論の構築

既存の理論では取り扱えない、又は取り扱いにくい量子力学的な物理量をも矛盾なく記述できる近接場光理論を構築した。射影演算子法を用い、微視的な物質系に働く有効相互作用という形で近接場光システムを定式化し、有限の相互作用範囲を持つ湯川関数で表される相互作用を導出した。また、この相互作用と物理的な直感とが合致するモデルとして局在光子の自由度を取り入れた理論モデルを提案した。これらの理論に基づき、励起エネルギー移動やコヒーレンス移動など近接場光特有の現象に基づくナノメートル寸法の新しい光デバイスを提案してその動作を解析し、実験結果とよい一致を得た。このデバイス作製のために、近接場光を用いた原子・分子の操作法の基礎的な解析を行い、プローブチップに単一原子が捕獲できる可能性を指摘した。

近接場光デバイスの開発

近接場光によって動作する光デバイスを開発した。図1に近接場光を用いたナノフォトニック集積回路の概念図を示す。光信号は集積回路チップに光ファイバ等で入力され、近接場光に変換、周波数分離の後、ナノフォトニックデバイスへ導かれる。各デバイスは近接場光で結合した複数の量子ドットで構成され、その寸法は100nm以下である。信号の入出力およびデバイス間伝送はプラズモン導波路が担う。ナノフォトニックデバイスの代表例として近接場光を用いたナノ光スイッチを提案し、量子ドット間の光学禁制準位間のエネルギー移動を測定して動作原理を検証した。次にスイッチの動特性などを評価した。続いてプラズモン導波路とナノ光集光器を開発した。また近接場光による化学気相堆積法および化学エッチングをはじめとするデバイス作製技術に関して近接場光特有な作製技術を開発し、これらを用いてナノ光デバイスを作製した。特に上記の加工過程で観測される非断熱過程などの新しい物理現象を解明し応用した。またこれらのデバイス作製のための高性能な近接場光発生・検出用デバイスを開発した。以上の結果の概要を図2に示す。

近接場光を用いた原子の偏向・誘導,捕獲・移動・解放の研究

近接場光を用いた高精度な原子の偏向・誘導,原子の捕獲・移動・解放の研究を行った。まず漏斗状の近接場光によって原子を冷却・収集する原子ファネルを開発した。ファネル内部での原子の多重反射効率を評価し、その結果からファネル励起用レーザビームの周波数離調とビーム径の最適値を見いだした。次に、シリコン基板を微細加工しスリット型原子偏向器、スリット型原子検出器を開発した。さらに検出効率を高めるために多重スリット型検出器を開発した(図3)。また、ファイバプローブを用いたルビジウム(Rb)原子捕獲のために、平面開口型三段テーパプローブを開発し、Rb原子の捕獲ポテンシャルを評価し、冷却原子が捕獲可能であることを確認した。単一原子捕獲のために冷却Rb原子からの共鳴蛍光を観測し、10個/s程度の原子計数が可能であることを示した。

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▲図1.ナノフォトニックデバイスとその集積回路

fig2

▲図2.ナノフォトニクスの研究成果 
(左図)ナノ光スイッチ。上から順に原理図、出力信号光強度分布、繰り返し動作特性。
(中図)プラズモン導波路とナノ光集光器。上から順に原理図、形状像、光強度分布特性。
(右図)近接場光による化学気相堆積の結果。上から順に亜鉛の単一ナノ微粒子形状。酸化亜鉛からのナノ発光強度分布。アルミの五つのナノ微粒子形状

fig3

▲図3.多重スリット型の原子検出器の原理、構造、特性

 

研究成果

評価・追跡調査

プログラム

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