目的と成果概要

「身体的行動から対人コミュニケーションまでを発達的につなぐ認知モデルのロボット構成論」を構築することが対人共創知能グループの最終目標です.対人共創知能の中心課題は,実世界行動とコミュニケーションとの融合で,その発達的構成論は,身体的共創知能と社会的共創知能の間を橋渡しすると考えます.私たちは,人間の胎児から乳幼児までを模した自律学習ロボットの構成論を通して,身体行動レベルから対人コミュニケーションまでの認知発達モデルを構築を目指しました.そして,共通の理論的基盤(身体性認知科学)の上で相互に強く関連させつつ並列に研究を進め,全ての課題に対する基礎モデルを構築すると共に,統合的認知発達実験の共通プラットフォームとなる赤ちゃんシミュレータおよび9ヶ月児型ヒューマノイドNoby(Nine-month Old Baby robot)を開発しました.

(a)胎児・新生児全身筋骨格シミュレータ(赤ちゃんシミュレータ) :筋骨格系,感覚器,脳神経系をモデル化し,子宮内環境および新生児環境内で活動し発達を模擬できる計算機シミュレーションシステム. 原初の感覚運動学習と身体図式獲得,初期運動発達およびその認知発達への影響,行動や環境と脳神経系の発達の関連性,などの実験的解明に用いた. 発達モデルとして運動発達における最小限の神経系を有するモデルを構築し,このシミュレータと統合することにより,発達実験を行い神経系での情報表現や運動の変化について世界に先駆けた成果を得ることができました.

(b)Noby(赤ちゃんロボット): 9ヶ月児の身体パラメータと感覚運動能力をできる限り忠実に再現したロボット. 全身触覚皮膚,全身運動機能,各種感覚器官を有し,全身運動発達や物体操作能力の発達,模倣学習,行動概念獲得,コミュニケーションとの融合の実験に用いる. 上記プラットフォームを用いて,共創知能機構グループが解明する神経科学的モデルを基盤として導入しつつ,認知発達モデルを統合し,システム化することで, 統合的な認知発達実験を展開し,目標とする連続的認知発達モデルの完成を図りました.


図1 対人共創知能グループプラットフォーム開発マップ

 道具使用やコミュニケーション・初期言語獲得のモデルなどについても研究を行いました.

 身体性に基づく感覚運動学習と認知発達の研究では, 自己の身体的な感覚が獲得されていく過程について,運動系の発達と身体表象の形成の学習モデルの構築を行いました. 一方で,発達においては自己の形成だけではなく他者との相互作用による学習も重要です. 人間の認知発達解明のために実際の赤ちゃんの実験・観察研究も行い,これまでなかった抱っこの際の母子の接触データが取得できるなど,ロボット工学との融合により独創的な発想による研究をおこなうことができました.

 音声模倣ならびに共感発達の研究においては, 社会コミュニケーションの最初期の学習過程として,他者との相互作用の中でも特に親子間の二者コミュニケーションに注目し,そこで行われる学習のモデル化を行いました.


図2 対人共創知能グループ認知・運動発達研究マップ