今後

今後

今後の展開として目指すこと,期待することプロジェクト全体として目指したのは,構成的手法による人間の認知発達過程の理解であり,5.5年の研究期間で多くの成果を挙げて来たが,それは最終ゴールに向けて,アプローチの模索状態から方法論が見えてきた程度とも見 なせる.新たな方法論を提示できたことは,非常に大きな成果であり,今後はこれに基づき新たな理解を創出する多くの成果とそれらの集約による新分野の確立が期待される.

筆頭は構成的発達科学の勃興である.既存科学ではアプローチ困難な課題に対して,コンピュータシミュレーションや実際のロボットによる実証実験により,新たな理解を生み出す分野である.一部, すでにプロジェクトメンバーによってロボティックサイエンスと賞する研究会(主査:國吉グループリーダー,総括及び他のグループリーダーは委員を立ち上げ現状のサイエンスの枠組みを変えるパラダイムシフトを起こし,新たなサイエンスを提言する事を狙っている(早くて5年,遅くとも10年後).典型例は,胎児・新生児の筋骨格・神経系発達シミュレーションで医学,神経科学,発達心理学の研究者との共同研究を推進することで,発達障害のモデル化(5年後),さらには著料にも役立つ成果(10年後)を期待したい.
現状の人口筋骨格構造を持つロボットは,まだまだ運動学/動力学的に人体に酷似したものになっておらず,これがある意味で認知発達へのつながりを妨げている可能性があるので,徹底して酷似した人口筋骨格構造の設計・作動を目指す.こららの成果と運動生理学との連携などにより構成的運動発達学が5年後位に構築されることが期待される.現状の各種リハビリマシンやBMIに利用されている身体は,人間との親和性がまだ弱く人間側に負担を強いるが,新たに開発される人工筋骨格ては,人体との酷似性によりこの問題が解決され,10年後には商品化されると期待される.

Neony, Kindy, Synchyの一連のプラットフォームは専門家だけではなく,認知科学者,心理学者にも使えるよう販売チャネルを既に確立している.ロボット制御可能な心理実験の対象とすることで,実験パラダイムをよりシステムティックに,また通常の人間では困難な実験仕様も考えられ,これらにより心理学によるパラダイムシフトが生じ,システムズ・サイコロジーが5年後くらいに確立される.もう1つの関係としては,ロボットは完全には人間となれないにも関わらず,人間社会が受け入れるとすれば人間がロボットをどのようにコミュニケーション相手として位置づけるかは,興味ある課題である.これは翻って,人間自身が,人間をどのように位置づけるかといった基本問題に立ち返る問題であり,一般大衆をターゲットにした社会実証実験につながる.この成果は,5年後くらいには人間社会におけるコミュニケーション発達の原理を解き明かすと同時に,親和性の高い人工物の設計を確立させ,10年後にはコミュニケーションロボットの商品化に役立っている.