Noby (赤ちゃんロボット)

全身感覚運動学習用認知発達ヒューマノイドNoby

全身運動学習用認知発達ヒューマノイドロボット開発

 身長や体重など,9ヶ月児の身体と同様の特性や全身の柔らかい触覚皮膚を持ち,乳児と同様に繰り返し環境や人間とのインタラクションができることを基本指針として開発を進めました.


図1 開発したロボット頭部

 触覚皮膚実装については,これまで硬いロボット外装に対して実装されたことはありましたが, 大きな曲率と柔らかい外装を持つロボットの全身にどのように実装を行うかについてのノウハウがなく先行研究も世界的に見てもほとんどありませんでした.
そこでまず,身長770mm,重さ4kgで市販のラジコン用サーボモータを使用した関節自由度19のロボットを開発し,実装と関節等との干渉について検討しました(図2,図3,図4).
また,技術的検討と共に赤ちゃんの行動が触覚に与える影響についても調査を行い,はいはいや寝返り,抱っこされる際の触覚データが統計的に異なることが確認され, 認知運動発達に関係したこれまでにないデータが取得できました [高妻2007]


図2 触覚実装検討用赤ちゃんロボット


図3 取得した触覚データの例


図4 触覚センサシート

 

開発したロボットの仕様
身長
750mm
体重
9kg
機構系
拮抗駆動(腱駆動)
モータ数
32個
関節数
30個
視覚
小型カメラ(2個)
聴覚
小型マイク(2個)
触覚
光拡散方式(約750点)
発声機構
小型スピーカ(1個)


図5 全身の設計図


図6 赤ちゃん全身ヒューマノイド用に開発した全身触覚センサ

図7 身体と頭部を統合した全身運動学習用認知発達ヒューマノイドロボットNoby

この全身運動学習型認知発達ロボットは世界的に類を見ないほど実際の赤ちゃんに近似した仕様となっており, このロボットを認知発達研究のプラットフォームとして活用し認知発達実験を行った.
以下ではその一部を紹介します.

Nobyを用いたインタラクション実験

乳児がおもちゃを持った時に行うような物体志向動作の獲得に関してモデル化しNobyを用いて検討しました. 物体の特徴がよく現れる働き掛けは複数あると考えられ,乳児は遊びの中で物体に応じて複数ある特徴的な動作を適応的に獲得していると考えられます.
例えば,ガラガラを持つと鳴らすように振ったり,カスタネットを持つと叩いたりといった行動です.
このような乳児の物体志向動作獲得をモデル化するため,動作とその動作に伴う顕著な反応を結びつける確率的動作生成モデルを構築しました. ガラガラやカスタネット,キーボードなど様々な物体を用いて実験を行ったところおもちゃや道具の特徴をよく表すような動作が獲得されました(図8). その際の運動のエントロピーは学習に従って低下しており,特定の運動を獲得していることが分かります(図9) [國吉2010e]


図9 ガラガラの音がよく出るように動作を獲得


図10 ガラガラを持った時の学習に従った運動のエントロピーの変化.ガラガラの音がよく鳴る運動が増加したためエントロピーが低下した

 赤ちゃんは環境中を探索し,ある対象に興味を示し,掴み・押し・叩き・舐め・投げることで物体とかかわり,さらには共同注意などにより物体を通じて他者とコミュニケーションを取ろうとします. 実世界中の対象に対して興味が移り変わるような赤ちゃんの性質を,視覚情報(色特徴)から注目度を抽出し馴化モデルと統合することで興味度マップを構成しモデル化しました(図10). 基礎実験としてロボットが行動せず視覚的興味モデルが単独で動作する場合には規則的に対象の興味が移り変わることが確認できました. また,ロボットが興味対象にリーチングし物体に触れるような相互作用を導入した場合には,動作が対象に影響を与えることで興味が複雑に移り変わり,実際の赤ちゃんのような興味の遷移を実現できました. 最後にヒトとのインタラクション実験を行った結果,ヒトが赤ちゃんの興味を引くような行動を取りやりとりを持続させようとして複雑な振る舞いを見せました(図11,図12). これはロボットにとって多様な経験が得られると同時に,社会的知能の獲得に重要だと考えらます [藤本2010]


図11 視覚情報からのボトムアップな顕著さに基づく興味モデル


図12 養育者とのインタラクション実験


図13 養育者とのインタラクション実験での興味の変化.人形に飽きた後,養育者に興味が移っている.