創発POメッセージ(酒見パネル/永江パネル)

創発PO: 酒見 泰寛(東京大学 大学院理学系研究科 教授)


【専門分野】 原子核物理実験

京都大学で理学博士を取得後、東京工業大学理学部助手、大阪大学核物理研究センター助教授、東北大学サイクロトロンラジオアイソトープセンター教授を歴任し、2016年より東京大学大学院理学系研究科附属原子核科学研究センター教授を務める。この間、東北大学総長特別補佐、文部科学省研究振興局学術調査官、日本物理学会理事などを務める。 専門は原子核物理実験、特に超精密基礎物理で、特異な構造をもつ原子核を対象に、基本相互作用において発現する対称性の破れと量子増幅現象の解明を推進している。原子核物理と量子エレクトロニクスの共創による量子センシング技術を開拓し、極限量子状態における量子多体系の超精密分光実験を通じ、物質創成の起源に挑んでいる。理化学研究所における低エネルギー重イオンビーム実験から、ドイツDESY研究所での高エネルギー電子深部非弾性散乱実験にわたり、クォーク・核子・原子核・原子の物質階層をまたいで、基本対称性に関する研究に幅広く取り組んできた。

POメッセージ

 挑戦的な研究活動は、既存の学問体系や方法論にとらわれず、未知の領域に挑むことから生まれます。その過程では、異分野との融合や予想外の化学反応が新たな発見や学術の進展を促し、失敗や試行錯誤も大切な一歩となります。本創発的研究支援事業は、こうした挑戦的な取り組みを支援し、新たな学問分野や社会的価値を創出する基盤となることを目指しています。
 私がPOを務めるパネルでは、長期的な視点に基づいて基礎研究を深め、幅広い分野との交流を通じて新たな研究領域を切り開くことを重視しています。高度に抽象化された数学理論の構築、量子の世界での独創的な基礎研究など、未知の法則を探る研究分野を柱としています。原子核や素粒子といったミクロなスケールから、地球内部の謎を解く地球物理学、惑星形成の探究、銀河や宇宙全体を対象とする天文学まで、多岐にわたる基礎科学を対象としています。
 また、本パネルでは異分野の研究者が交流し、互いに刺激を受け合い、新たな着想が生まれる場を醸成することに力を入れていきます。異なるバックグラウンドや視点を持つ研究者同士の対話や共同研究は、従来の発想を超えた革新的な研究成果を生む原動力となります。研究分野の壁を越えて新しい学問や技術を創出し、未知の領域を切り拓いていきましょう。この事業を通じて、挑戦を恐れず未来を切り拓く創発研究者の皆さんが、研究キャリアをさらに飛躍させることを心より願っています。

前創発PO: 永江 知文(大阪大学 核物理研究センター 特任教授)(2024年11月まで)


【専門分野】 原子核物理学実験、ハドロン物理学実験

東京大学にて理学博士の称号を取得後、東京大学理学部助手、東京大学原子核研究所助教授、高エネルギー加速器研究機構教授を経て、2007年より京都大学大学院理学研究科教授を務める。その間、日本物理学会会長、核物理懇談会核物理委員長などを歴任。
原子核物理学実験、ハドロン物理学実験を専門とし、原子核・ハドロンを対象として「強い相互作用」が織りなす多彩な原子核・ハドロンの世界の研究で世界をリードしてきた。大強度K中間子ビームや大型精密分光装置を駆使して、ストレンジネス自由度をもった、新奇な原子核物質の探索やその性質の解明を通じ、クォーク多体系物理学という新しい研究分野を開拓した。米国Brookhaven National Laboratory Alternating Gradient Synchrotron (BNL AGS) においてダブルハイパー核の先駆的な探索実験を日米の協力により推進したほか、イタリアのINFN Frascati National Laboratoryのハイパー核実験FINUDAにおける日本側研究グループを主導するなど国際研究協力に取り組んできた。2023年3月末をもって京都大学を定年退職し、大阪大学核物理研究センター特任教授、京都大学、高エネルギー加速器研究機構の名誉教授。

POメッセージ

 研究というものは、次から次へと新しいアイディアに触発されて、これまでに誰も考え付かなかったようなユニークな研究の種が生まれてきます。適切な規模の研究者集団が集まって、そこに適切な規模の研究予算が投入されることにより、従来には不可能であったような研究が、その地に生まれていきます。本創発的研究支援事業は、その中でも、基礎科学の分野から応用技術の分野まで、広範囲の研究課題をカバーしているという特徴があります。加えて基礎から応用までの研究において、どうしても必要となる時間的に長いスパンで行われる研究課題を支援することにも取り組んでいこうとする非常に野心的な取り組みとして設計されています。私がPOを務めるこのパネルは、高度に抽象化された数学分野の研究や量子の世界の独創的な研究の場を創り出す物理学・プラズマ分野等を大きな柱とし、原子核・素粒子などのミクロの世界から、惑星系、宇宙・天文などのマクロの世界の基礎科学を研究対象としています。本事業への参加に興味を持たれる方は、伝統的な学問の枠組みを敢えて壊してみて、そこから見えてくる新しい学問の地平を眺めてみて下さい。若い研究者の視点で見渡すと、現在の研究の枠組みにどっぷりつかった中堅研究者には見えない新しい世界が見えてくるかも知れません。  
 本事業には、こういった基礎科学研究のもつ独創性、学際性、拡張性についてリスクを許容する必要性があることが強く意識されています。そこで、支援を十分に手厚く行うために、原則7年、最長で10年の長期的な研究支援であるという特徴が埋め込まれています。これを活かさない手はありません。また、もう一つの特徴として、他分野・異分野の若手研究者間の出会いを、どこまで拡げていけるのかが一つの目標となっています。本事業全体のなかでも、基礎科学分野との結びつきが非常に強い当パネルでは、多様な研究課題に基礎から取り組むことを支援するとともに、研究分野の創成を通じて自らの研究分野の将来を切り拓いていくキャリア・アップに向けた多くの人々との連携を創り上げていきます。