創発POメッセージ(沖パネル)

創発PO: 沖 大幹(東京大学 大学院工学系研究科 教授)


【専門分野】 地球水環境システム

1993年博士(工学、東京大学)、2006年東京大学生産技術研究所教授。2016-21年に国連大学上級副学長、国際連合事務次長補を兼務。2020年より現職。日本学士院学術奨励賞、生態学琵琶湖賞、国際水文学賞Dooge Medal、EGU John Dalton Medalなど表彰多数。専門は地球規模の水文学。気候変動がグローバルな水循環と水収支に及ぼす影響評価、洪水や旱魃の深刻化と持続可能な開発など。IPCC第5次評価報告書統括執筆責任者を務めた。書籍に『水の未来』(岩波新書)、『水危機 ほんとうの話』(新潮選書)など。2020年より日本学術会議会員、ローマクラブ正会員。水文・水資源学会会長。

POメッセージ

 科学技術は、脆弱な人間を自然への隷従や理不尽な労働に伴う苦痛から解き放ち、災害や疫病による不慮の死を軽減させ、我々の生活圏や行動範囲と自由な時間、そして知の領域を拡大してきました。しかしながら、そうした科学技術の恩恵に十分浴さず貧困や欠乏の恐怖から自由ではない脆弱な人々もいます。また、さらなる人口増加と人間活動の拡大に伴う気候変動の悪影響や生物多様性喪失の増大等が懸念されています。
 そのため、カーボンニュートラルな社会や循環型経済の実現によるそうした地球規模課題の解決と安全で心豊かに暮らせる社会の構築に期待が寄せられています。それには、エネルギーや鉱物資源、水資源、物質循環にかかわる革新的な要素技術の開発と効率や信頼性の向上、そして都市や農村における居住・交通システムの新たなデザインが不可欠です。
 また、すべての人々が自己尊重感と尊厳を持ち持続可能で平和な社会への転換を促進するには、人新世や複雑系、ネットワーク、人間の行動選択や信頼醸成などの理解や理論構築、研究開発に新たな潮流を生み出す画期的な概念や枠組みの提案が必要です。さらに、それらを活かした次世代型社会システムの提案や設計と実装、普及も重要です。
 創発的研究支援事業の本パネルでは、広く資源、エネルギー、社会基盤を含む環境ならびに防災の分野において、飛躍的な科学技術の創造・革新・普及をもたらし、それらを通して地球規模から地域の問題を解決し持続可能な社会の構築に大きく貢献しようという意欲的な研究提案に期待します。
 真理の追及や問題解決に必要な学術は文理を問わず利用するような統合的学際研究を先導し、新たな学術を切り拓こうという新進気鋭の若手研究者の支援ができれば幸甚です。