創発チーフ・アドバイザーメッセージ(人文社会審査チーム)

創発チーフ・アドバイザー: 小林 傳司(大阪大学 COデザインセンター 特任教授)


【専門分野】 科学哲学・科学技術社会論

京都大学理学部卒、東京大学科学史・科学基礎論博士課程単位修得満期退学後、福岡教育大学、南山大学を経て、2005年大阪大学教授、2015年より理事・副学長を務め、2020年より同名誉教授、COデザインセンター特任教授。2019年よりJST 社会技術研究開発センター(RISTEX)上席フェロー、同センター長を兼務。科学技術社会論学会を立ち上げ(初代会長)。日経BP・BizTech図書賞、科学技術社会論学会柿内賢信記念賞特別賞を受賞。
専門は科学哲学・科学技術社会論。遺伝子組み換え技術等に関する市民参加型の合意形成会議(コンセンサス会議)を開催。科学が問うことはできるが、科学だけで答えられない問題である、「トランス・サイエンス」を日本に浸透させた。

チーフ・アドバイザーメッセージ

 文理融合は大事だ、と繰り返し言われてきました。しかし簡単には進みません。何年も前から言われているのに進まない「融合」。理由は簡単かもしれません。さまざまな学問の知には、そして特に文理にはそれぞれに存在理由があるから分かれてきたのでしょう。「手を挙げる」から「手が上がる」を引いたら何が残るのだろうか。「考える」から「情報処理をする」を引いたら何が残るのだろうか。何かが残りそうだと考える限り、「融合」はできないのかもしれませんし、融合しなくてもいいのでしょう。「融合」は簡単ではありませんが、「一緒に考える」ことはできそうですし、やった方が面白いのではないでしょうか。人文社会審査チームは、「一緒に考える」提案を歓迎したいと思います。文系も理系も研究の上でそれぞれが大事にしていることがあります。それを大事にしながら「一緒に考える」試みを期待したいものです。発想や言葉遣いが違うことを前提にして、どちらかに寄せ切らずに辛抱してみる、すると何か面白いことが出てくるかもしれません。
 安易に「文理」という言葉を使っていますが、「文」も「理」も多様なものです。人文学と社会科学は大きく異なりますし、それぞれの中も多様です。理の多様さは創発のパネルの数で分かる通りですね。そろそろ「文理」という解像度の粗い言葉遣いをやめる時期かもしれません。人文社会審査チームは、多様な知の組み合わせを含んだ研究提案について、「融合」しているかという観点ではなく、それぞれの知の特性と強みが生かされた形で「一緒に考える」取り組みになっているか、という観点からアドバイスしていきたいと思います。
 「創発的研究」のいのちは多様な知の自由闊達な交歓にあると思っています。ぜひ、面白い研究を。