研究開発テーマ & 研究課題

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  4. iPSを核とする細胞を用いた医療産業の構築

本テーマは平成26年度をもって終了しました。
所属・役職は終了当時の情報に基づきます。

プログラムオフィサー

西川 伸一PO写真

プログラムオフィサー(PO)

西川 伸一

オール・アバウト・サイエンス・ジャパン 代表

専門分野

幹細胞研究、発生生物学、再生医学

研究開発テーマの設定趣旨

1.研究開発テーマの概要

 iPS細胞研究は2006年に京都大学 山中教授によって示された「遺伝子を導入するだけで分化細胞を多能性の細胞へとリプログラムできる」という画期的な発見をきっかけに、さまざまな医学分野に急速に拡大している医学領域全体を指します。ただ、このような大きな変化が発見後わずか3年で世界中に広がっていることから、なかなか将来をしっかり見据えて、この発見がもたらす可能性を社会に還元しようとする取り組みが進んでいません。本事業は幸い、最長10年の研究開発期間を与えられていることから、最新のiPS細胞研究に基づきながら、この技術に期待が集まる再生医療や医薬品開発を支える新しい医療産業基盤の構築を目標としています。重要課題を段階的に実現していく中で、産業基盤を醸成することを目指します。具体的課題の最も重要なものは再生医療への応用です。わが国で開発されたiPS細胞技術を用いた世界初の臨床研究の実現が可能な競争力のある分野を選択し、この臨床研究から一般医療へと転換する中で、日本では不可能とされている再生医療を可能にする企業群を育成したいと考えます。安全なヒトiPS細胞由来移植細胞の作製、評価・検証、細胞移植手術などにかかわる技術・ツール・装置などの開発および細胞移植治療の臨床治験プロトコルの作成とそれに基づく臨床研究、そしてそれを支える産業の振興までを含みます。具体的な治療対象としては、iPS細胞の最大の課題である発がんの懸念を少しでも軽減し、早期の臨床研究を実現するために、移植細胞の数が10の4乗個程度以下で済み、かつ移植細胞の安全性について1細胞レベルで評価可能な疾患を対象とします。細胞治療の一般化を目指すプロジェクトと並行して、iPS利用分野として期待が集まる医薬品開発分野についてもプロジェクトを設定します。現在多くの製薬企業が使用している輸入ヒト細胞と同等以上の品質を有するiPS細胞由来ヒト細胞の作製、大量増殖、細胞機能の検証などにかかわる技術・ツール・装置などの開発およびiPS細胞由来ヒト細胞を用いたアッセイキットの開発やヒト化動物の開発までを含みます。なかでも、いかにして正常細胞の大量培養を実現するかは最重要課題と考えています。 本研究開発テーマが終了した時点で、

  • iPS細胞を用いる細胞移植医療を普及するための再生医療支援企業群が、新たな産業の中核企業としてビジネス展開している。 
  • 多くの製薬企業でヒトiPS細胞由来機能細胞を用いた医薬品開発が行われており、ヒトiPS細胞由来機能細胞の供給を可能とする医薬品開発支援企業群が、新たな産業の中核企業としてビジネス展開している。 

 ことを思い描いて創意に満ちた多数の研究提案を期待しています。

2.プログラムオフィサー(PO)による公募・選考・研究開発テーマ運営にあたっての方針

対象範囲の設定

 iPS細胞は、患者自身の体細胞から作製することができ、無限の増殖能を有しており、かつ、体を構成するあらゆる細胞を作り出せる能力を持つことからヒト細胞の供給源として極めて魅力的です。すなわち、患者にとってiPS細胞は、病気や事故などによって失った組織や臓器の機能を回復させるための移植用細胞の供給源として、免疫拒絶のない再生医療を実現するための大きな希望となっています。また、患者由来のiPS細胞を用いた疾患モデル細胞の作製やそれを用いた疾患メカニズムの解明、さらには医薬品開発のためのヒト細胞の供給源としても重要です。このようにヒトiPS細胞の持つ限りない可能性から、世界中で熾烈な開発研究が展開されています。iPS細胞を再生医療や医薬品開発に活用するための明確な戦略を立て、iPS細胞由来のヒト移植細胞を作製して再生医療の現場に供給する、あるいはiPS細胞由来のヒト機能細胞を作製して製薬企業の医薬品開発の現場に供給するための具体的な目標を設定し、企業など再生医療や医薬品開発を支える新たな産業基盤を構築することがこのプロジェクトのミッションです。

1)再生医療分野における開発課題

 iPS細胞のキメラマウスやiPS細胞移植など動物を用いた研究から、iPS細胞の最大の関心事は腫瘍形成など安全性の確保です。ただ、ゲノムに傷をつけないiPS誘導法が開発された今、未分化なiPS細胞の混入が移植後腫瘍発生の主な原因であることが明らかになりつつあります。従って、完全に分化させたことを移植用の個々の細胞について保証する培養技術、評価技術、細胞分離技術や装置の開発が最も重要な課題になります。そこで、本テーマにおける対象疾患を、移植する細胞の数が少なくてすむ疾患(移植細胞数として10の4乗個程度で治療可能なもの)に限定し、早期の細胞治療の実現を優先します。幹細胞指針に基づく治療が少なくとも5年以内にできるというめどが立っているものを選びたいと考えています。また、iPS細胞を用いた再生医療を実現するため、iPS細胞由来移植細胞を用いた臨床試験を最短で実施するためにも臨床研究と臨床試験のプロトコルを同じにして、すなわち、開発当初から臨床試験のプロトコルに適合するようにGMP基準のiPS細胞由来移植細胞を作製することになります。そのため、臨床研究の段階から企業が参加し、治験のための材料、プロトコル、機器の開発まで視野に入れたプロジェクトが必要です。
 以上のことを考慮してご応募ください。

2)医薬品開発分野における開発課題

 これまでの医薬品開発において、ヒト正常細胞は入手の難しさや高価であるなどさまざまな理由からあまり使われてきませんでした。しかしながら、医薬品開発の前臨床試験や臨床試験の段階で有効性が確認できなかったり、副作用の発生によって脱落する原因のひとつに実験動物とヒトとの間の種差があげられることから、医薬品開発におけるヒト細胞の潜在的ニーズは非常に高いものがあります。また、市販後に広く患者に投与されて初めて見つかる重篤な副作用を理由に市場撤退した医薬品もかなりの数に上ります。その撤退理由をみると、主に肝毒性、心毒性および薬物間相互作用による副作用がほとんどです。ちなみに、重篤な副作用の発生頻度の高い心毒性(hERGチャネル阻害などに基づく致死性不整脈など)や薬物間相互作用(CYP活性の阻害やCYP発現誘導など)については、ヒトの遺伝子発現細胞(hERG発現HEK293細胞)やヒト凍結肝細胞などを用いて医薬品開発の早い段階で評価するようになってきています。ヒト凍結肝細胞については、製薬企業での使用量の増加に伴い、年々価格が上昇してきています。
 ヒトiPS細胞は無限に増殖し、また、体のあらゆる細胞に分化できる能力を持つことから、医薬品開発研究における薬効評価や毒性評価のための医薬品開発の有用なツールとしても期待されています。そこで、製薬企業が医薬品開発に使用しているヒト肝細胞などの機能細胞をヒトiPS細胞から大量に作製し、十分な機能を持つ細胞をより安価に供給可能とする技術・ツール・装置などの開発を目指します。開発された技術は、治療に大量の移植細胞を必要とする疾患の再生医療の実現に適用できるものと期待しています。また、多くの研究グループへの細胞配布のためには大量培養が必要です。しかし、均一性が保証された正常細胞を大量かつ安価に調整することは、全く未知の領域です。各人の技術がどこかで役に立つと主張するのではなく、この重要課題の解決を図るためにはどうすればよいのかという明確なプランを期待しています。
 以上のことを考慮してご応募ください。

プログラムオフィサー(PO)及びアドバイザー

(敬称略)

氏名 所属・役職
PO 西川 伸一 オール・アバウト・サイエンス・ジャパン 代表
アドバイザー 秋元 浩 知的財産戦略ネットワーク株式会社 代表取締役社長
アドバイザー 牛島 俊和 国立がん研究センター研究所 上席副所長
アドバイザー 片倉 健男 国立医薬品食品衛生研究所 遺伝子細胞医薬部 客員研究員
アドバイザー 白橋 光臣 iPSアカデミアジャパン株式会社 ライセンス部長
アドバイザー 高橋 政代 独立行政法人理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター 
網膜再生医療研究開発プロジェクト プロジェクトリーダー
アドバイザー 西原 達郎 元 アスビオファーマ株式会社 顧問
アドバイザー 大和 雅之 東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 教授
アドバイザー 渡邉 すみ子 東京大学 医科学研究所 再生基礎医科学寄付研究部門 特任教授

課題

※プロジェクトマネージャー(各課題のとりまとめ役)はお名前を太緑字にしてあります。

(敬称略)

iPS細胞由来ヒト肝幹細胞ライブラリーの構築によるファーマコセロミクス基盤技術開発
※H25年度終了

開発リーダー
安達 弥永
積水メディカル株式会社 薬物動態研究所 副所長 兼 試験研究部長
研究リーダー
谷口 英樹
横浜市立大学 大学院医学研究科 教授
課題概要
ヒトiPS細胞を用いて肝幹細胞ライブラリーを構築し、これら遺伝的背景の異なる肝幹細胞から成熟肝細胞を誘導・大量調製する技術を開発して、ヒトiPS細胞由来肝細胞を用いた医薬品開発研究応用の実現を目指します。具体的には、ヒトiPS細胞から肝幹細胞への分化誘導、さらに、肝幹細胞からヒト成熟肝細胞への分化誘導の様々な培養工程を標準化することにより、薬剤評価に使用可能な高品質で安価なヒト肝細胞を安定的に大量供給するために必要とされる各要素技術と融合技術を開発します。

細胞移植による網膜機能再生
※1 H21年度~H23年度

開発リーダー
畠 賢一郎
株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング 研究開発部 常務取締役 研究開発部長
研究リーダー
高橋 政代
公益財団法人先端医療振興財団 先端医療センター研究所 視覚再生研究グループ グループリーダー
課題概要
iPS細胞およびES細胞から分化誘導した網膜細胞の移植による、加齢黄斑変性や網膜色素変性その他の網膜障害治療の新たな医療技術を開発して提供します。具体的には、 iPS/ES細胞から分化誘導した網膜色素上皮細胞あるいは視細胞の品質規格を適切に設定し、また、分化細胞の純化、造腫瘍性試験などの観点に基づく安全評価方法等を確立します。臨床研究の段階から企業と連携して、世界に先駆けた高水準の網膜細胞移植治療の実現と産業化を目指します。

※1 S-イノベの成果を基に文部科学省「再生医療の実現化プロジェクト 再生医療の実現化ハイウェイ」に移行し研究を加速

遺伝子・細胞操作を駆使したヒトES/iPS細胞利用基盤技術の開発
(課題名変更:2010/1/8)
※H25年度終了

開発リーダー
斎藤 幸一
住友化学株式会社 生物環境科学研究所 分子生物グループ グループマネージャー
研究リーダー
末盛 博文
京都大学 再生医科学研究所 准教授
課題概要
高度な遺伝子・細胞操作技術を駆使し、眼組織を研究対象として、iPS/ES細胞を産業利用・医療応用する上で必要となる分化誘導・純化・保存・安定大量供給・品質管理に関する基盤技術等を開発します。その成果は、「細胞移植による網膜機能再生」プロジェクトにおけるiPS/ES細胞由来網膜細胞を用いた網膜細胞移植治療の臨床研究に活用します。また、本プロジェクトで開発する技術・ツールを医薬品等の開発における薬効・毒性評価試験へ利用することも目指します。

網膜細胞移植医療に用いるヒトiPS細胞から移植細胞への分化誘導に係わる工程および品質管理技術の開発

開発リーダー
阿部 浩久
株式会社島津製作所 基盤技術研究所 主任研究員
研究リーダー
紀ノ岡 正博
大阪大学 大学院工学研究科 教授
課題概要
「細胞移植による網膜機能再生」プロジェクトにおけるiPS/ES細胞由来網膜細胞を用いた網膜細胞移植治療の臨床研究で実現する加齢黄斑変性症や網膜色素変性症等の少数の患者を対象とする細胞移植治療を、広く世界中の加齢黄斑変性症・網膜色素変性症等の患者が受けられるようにするため、網膜細胞移植医療に用いるヒトiPS細胞から移植細胞への分化誘導に係わる培養の自動化ならびに評価技術を構築し、安定した細胞供給を目指します。
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