2020.06.03

インタビュー「先端研究の社会的課題を見出す リアルタイム・テクノロジーアセスメントの手法構築」

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先端的なテクノロジーは、社会で実装、活用される段階にあたって、常に様々な倫理的な課題や社会的影響を伴います。
それら研究の社会的な関心の所在を、研究開発の段階から多様な立場の人々とともに検証するプロジェクトの代表を務める標葉隆馬氏に話を伺いました。

標葉隆馬
成城大学文芸学部マスコミュニケーション学科准教授。HITE 採択プロジェクト「情報技術・分子ロボティクスを対象とした議題共創のためのリアルタイム・テクノロジーアセスメントの構築」代表。専門は科学社会学、科学技術社会論(STS)など。

ー まずは、プロジェクトの概要について教えてください。

 私たちのプロジェクトでは、まだ市場や社会に出ていない科学技術に関して、どのような社会的課題や倫理的課題が生じうるのか、またどのような関心を持たれそうかをできるだけ早い段階から検証しています。そのアセスメント(評価)を通じて、議論をどんどんとアップデートしていくことが目的です。同時に、浮上してきた論点をみんなで共有し、さらに議論を深めるためのコミュニケーション・プラットホーム「NutShell」の構築を目指しています。
 そこでは、ある分野の専門家だからこそ想像できる、一見気が付きにくい現象を抽出することもあれば、多くの人が関心をもつポイントを対話の中から導くことも考えられます。様々な分野の人がリアルタイムに議論を重ねることで見えてきた関心のポイントをもとに、それらを政策形成に携わる方や一般の方、あるいはNPOのような団体など、色々な立場の人が使える資料として可視化するのが目的です。

ー 具体的にはどんなテーマの議論が進んでいるのでしょうか。

 たとえば協働でプロジェクトを進める東京工業大学の小長谷明彦先生の研究では、将来的に人間の生体内を動き回るかもしれないナノサイズのロボット、「分子ロボット」の開発を進めています。ただ、こうした先端的な技術には、生命倫理や法適用など様々な課題が浮上しますし、実際にどう受け入れられるのかはまだ予測の範囲を超えません。たとえ予測がある程度ついたとしても、それは本当に妥当なのか、他にも浮上するかもしれない課題や未来像のイメージを見落としていないかなどを注意深く検証していく必要があります。そこで、メディア分析やスキャニングなどの手法を用いて、これから世に出る先端研究がメディア上でどう語られるのか、「まだ認識されていないものの受け入れられ方を分析する」という雲もつかむような目的において、どうすれば高精度のデータを得られるかを考え、その分析法の確立を目指しています。

ー どんな背景からこのプロジェクトを始動されたのでしょうか。

 以前から、研究従事者と非専門家である一般の方がボトムアップで議論できるような場が必要だと感じていました。けれど、共通言語をもたない人々同士の対話では、お互いの考えのポイントがどこにあるのか、その相場観をつかんでいかないと議論が成立しません。そのままでは先端的な科学技術が世に出る時の社会的なアセスメントを得ようと思っても、一向に結論は出ない。そこで、このHITEプロジェクトを通してその方法論自体を設計したいと思いました。
 最終的な目標は、適切なガバナンス(統治)システムの構築です。科学技術には色々な可能性やメリットがある一方で、適切なガバナンスのもとに研究が営まれていかないと、さまざまなリスクが顕在化しますし、特定の人たちから偏った見方でリスクと認定されてしまうような問題も起きます。そうした偏りを防ぐために、きちんと評価を下せる体制やシステムを構築すること、そのための社会的なテクノロジーアセスメントが重要だと考えています。

ー コミュニケーション・プラットホーム「NutShell」は、具体的にどのように活用されるのでしょうか。

 基本的にはニュースのキュレーションサイトのような形式を想定しています。その時々で話題となった論文やニュースを集約し、各記事に簡単な概説を付記します。そして、そのニュースに対して人々が共感の度合いを示す「いいね!」の数だけではなく、意義の「ある・なし」など、2軸の分布で可視化できるというものです。そうすることで、「重要だと思うけど共感はしない」など、既存のSNSよりも多様な評価が可能になります。また、「Reddit」(英語圏で普及しているウェブサイト。投稿したニュースなどに対してコメントをつけられる)のようにコメントを付けることもできます。特定の話題に対して、どのように意見が分布しているか、それぞれコメントを見ることができれば、論点の広がりや、極と極にいる人たちの関心どころが可視化されるので、より議論がスマートになり、オルタナティブな視点の議論も見えてくると思います。
 ただ、現段階での利用者は専門家(または準専門家)に絞りたいと考えています。本来ならオープンなソーシャルメディアのほうがより多様な議論を展開できるメリットがあるはずですが、昨今は何かとリスクのほうが高い。運用からある程度のノウハウが溜まっていった段階で、徐々に対象を広げてオープン版へ展開できればと考えています。

ー 今後の活動予定について教えてください。

 まず2019年度は、NutShellを色々な方面から試行していく予定です。実際に運用したときどんな展開があるのか、論点の可視化にどのようなパターンが可能かを見ていくために、できるだけ多くの事例に対して議論を起こしていくのが来年度の目標です。それらを踏まえて、UIのブラッシュアップや運用方法のノウハウのマニュアル化も進める予定です。
 もうひとつは、研究従事者がリスクをどのように議論しているかに関する深堀り調査です。ある研究領域とライバル視されている領域を比較する際、それぞれの研究領域の強みと表裏一体にあるリスクについて、どのような議論があり、具体的にどういったリスクが見出されるのか、それに対してどのような対策を立てられるのかといったことは、これまでの社会的テクノロジーアセスメントや政策形成の中で見落とされてきました。一般論に留めてしまうことなく、技術特性として表裏一体のリスクとは何かという視点を持つことで、そのリスクの取り扱い方や規制の作り方、デュアルユース的な問題に関する議論の仕方も変わってくると思います。

※本インタビュー記事は、「人と情報のエコシステム(HITE)」領域の小冊子Vol.03に収録されています。小冊子の入手については以下をご確認ください。
「人と情報のエコシステム(HITE)」領域の小冊子Vol.03
「人と情報のエコシステム(HITE)」領域の小冊子Vol.02
「人と情報のエコシステム(HITE)」領域の小冊子Vol.01