成果概要

Child Care Commons:わたしたちの子育てを実現する代替親族のシステム要件の構築2. Child Care Commons運用システムの設計

2022年度までの進捗状況

1.概要

本研究開発項目では、「Child Care Commons(CCC)」の実現に必要となるシステムの要件を構築することをめざします。この目標を達成するために、システムによって実現されるべき機能群を明らかにするとともに、その機能群を実装できる技術の要件を検討します(課題3)。また、次年度以降、実現されるシステムの評価方法についても検討していきます(課題4)。
近年、スポーツや街づくりといったコミュニティ形成に関する社会課題を、デジタル技術、特にブロックチェーン技術やそれに類する技術によって解決する試みがなされています。これらの中では、スポーツチームの応援や自治体への参画の方法として、その「証」(電子的なトークン)を発行し、コミュニティへの関わり方のバリエーションを増やしています。このような関わりの「証」は、所有者に、ある種の帰属意識を生じさせ、一定の割合の人が、その組織に主体的に関わる「仲間」として、コミュニティに参画するようになっています。
CCCでは、このような関わりの「証」を子育ての場にも導入し、子育ての環境に新たな選択肢をもたらします。子育てに、親子以外の多様な人(以降、参画者)も、その人なりのやり方で柔軟かつ責任を持って関わる可能性が生まれます。このような子育ての形の多様化は、様々な負担で苦しんでいる親子への助けとなるだけでなく、どの子どもにも、多様な大人との関わりを自ら選択し成長する機会を提供すると考えられます。参画者も、子どもが成長する時間に寄り添った「証」が得られ、子育てへの関与感・貢献感といった充足を得られるでしょう。CCCの実現に向けて、本項目では、既存制度との関係を考慮しつつ、CCCのシステムで実現される機能群や技術要件を検討します。

2.2022年度までの成果

これまで述べたようなCCCの機能を実現するシステムは、子育てへの関わりの「証」を電子的に保証するだけではなく、親子と参画者のコミュニケーションのデータを各家族が望む形でプライバシーを保持しつつ共有し、そこで生じている関係性を可視化し、親子と参画者が自らの意思で子育てのコミュティを更新していけることが望ましいでしょう。現在までに、親子と参画者の間でどのような行為が行われ、何が実現されるのか、その概念モデルと、それを実現する技術要件を明らかにしました。このモデルでは、大まかに、以下のような形で、自律的な合意形成に基づいて、親子と参画者による、子育て環境の構築が進められることが期待されます。
1)親子と参画者のやり取りは「関係性構築」から始まります。合意形成がなされた場合には、2)その親子の子育てのコミュニティに対する参画の「証」(=メンバーシップトークン)を発行します。続いて、3)参画者の役割・関わり方を調整します。4)その際に、親子と参画者の関わりの情報、例えば、共同活動の写真などを、改ざんされない関わりの「証」として記録します。5)同時に、親子と参画者のやり取りに関するデータを、NTTが提唱する「社会関係性プラットフォーム」に入力、操作して、親子と参画者の関係性を可視化します。4)と5)のプロセスを通じて、親子と参画者は、コミュニティが持続されるようにします。6)その後、関係性終了時は、親子と参加者の合意の下、「メンバーシップトークン」が失効します。

3.今後の展開

今後、親子と参画者のやり取りの記録方法や、データのプライバシーやセキュリティなど、技術面での検討とともに、情報共有のルールといった制度設計や倫理面での検証も進めていきます。また、システム評価の一つの方法として、参画者の子育てに関わる中での考え方や態度の変化を、認知科学や脳科学の視点からも検証します。
(渡邊淳司・NTTコミュニケーション科学基礎研究所
細田千尋・東北大学)