成果概要
東洋の人間観と脳情報学で実現する安らぎと慈しみの境地3. 社会実装
2022年度までの進捗状況
1.概要
仏教文献の調査を進め、スマートフォンアプリケーションを用いて社会実装する、瞑想訓練内容の大枠を策定しました。また、仏典にて言及される、煩悩から見た人間のタイプ分けと、タイプごとに行うべき初歩の瞑想を整理する作業を行いました。これは、個性に応じた瞑想の選択を行うために必要となる工程です。並行して、アプリの開発作業を進めました。アプリには、仏教文献調査から策定された訓練内容を忠実に再現することが求められます。また、数百人規模の介入実験に耐える仕様であることが必要となります。これらの要件を満たすアプリを作るために、プロジェクト内外において多様な意見を聴取・集約する作業に取り組みました。加えて、瞑想訓練プログラムの雛形となる介入プログラムの先行作成にも取り組みました。
2.2022年度までの成果
研究開発課題1:仏教文献調査と瞑想デザイン
(1) 瞑想訓練内容の大枠策定
仏教文献の中から瞑想に関する記述を取り出し整理する作業を進め、瞑想技法の歴史的展開を明らかにしました。仏教瞑想の初期には「注意を振り向けてしっかりと把握する」という理念(念処)が実践されていました。歴史的展開を経て、この実践は三種類に大別されるようになります。心の働きを静めるサマタ瞑想群、心の働きを含むあらゆる行動を観察するヴィパッサナー瞑想群、慈悲を中心とした四無量心の瞑想群です。これに準備行と呼ばれる、宗派を超えて実践される瞑想実践準備を加え、スマートフォンアプリケーションを用いて社会実装する瞑想訓練内容の大枠を策定しました(図1)。
(2) 煩悩の種類から見た人間個性のタイプ分け
プロジェクトの主要な取り組みのひとつに、大規模なデータベースを作成し、これを用いて人の個性のタイプ分けを行うことがあります。これに貢献するために、仏教伝統が唱える、煩悩の見地から考えられる人間個性のタイプ分けを整理しました。『清浄道論』という仏典をもとに、煩悩から見た個性の基本パターンと派生パターンを分類しました。さらに、それら煩悩に対処し、軽減するために用いられる初歩的な瞑想についても整理しました(図2)。
研究開発課題2 スマホアプリによる大規模介入実験
(1) アプリ仕様策定
大規模瞑想介入実験で用いるアプリについて、仕様の策定を進めました。アプリには、仏教文献調査から策定された訓練内容を忠実に再現することが求められます。また、数百人規模の介入実験に耐える仕様であることが必要となります。これらの要件を満たすアプリを作るために、プロジェクト内外においてヒアリングを行い、アプリについて要望やアイデアを収集しました。挙げられた要望やアイデアをもとにフローチャートを作成し、詳細な仕様案としてまとめました。また、アプリのイメージをプロジェクト内で共有するために、インターフェースのデザイン案を作成しました(図3)。これらデザインにも、収集された仕様アイデアが反映されています。
(2) 瞑想訓練内容の雛形作成
アプリに実装する瞑想訓練の雛形作成に着手しました。最終的に実装される瞑想訓練は、仏典研究に基づいたものになる計画です。しかし、それらとは異なる瞑想介入プログラムの作成に先んじて取り組みました。この介入プログラムは、Mindfulness-based Interventionと呼ばれる近年の瞑想介入パッケージに基づいたものです。早期に瞑想訓練の雛形といえる介入プログラムを作成することで、今後の瞑想訓練やアプリ開発を円滑化することが狙いです。指導内容の台本を作成し、それをもとに仮音源を作成しました。
3.今後の展開
瞑想の系統整理のため、文献調査を引き続き行います。また、仏教文献の調査に基づいた瞑想訓練の完成に向けて、具体的な瞑想指導ナレーションの作成に取り組んでいきます。並行してアプリの開発を進め、早い段階で大規模介入研究を開始できるよう準備します。
(蓑輪顕量:東京大学、川島一朔(ATR)