成果概要

東洋の人間観と脳情報学で実現する安らぎと慈しみの境地[3] 社会実装

2023年度までの進捗状況

1. 概要

仏教文献の調査を進め、スマホアプリを用いて社会実装するため、瞑想内容の大枠を策定しました。また、仏典で言及される煩悩から見た人間のタイプ分けと、タイプごとに行うべき初歩的な瞑想を整理しました。これは、個性に応じた瞑想の選択を行うために必要な工程です。並行して、アプリの開発作業も進めました。アプリには、仏教文献調査から策定された内容を忠実に訓練において再現することが求められます。また、数百人規模の介入実験に耐える仕様が必要です。これらの要件を満たすアプリの作成を開始しました。さらに、最終的に複数作成予定の瞑想訓練プログラムのうち一つ目を完成させ、また実験デザインを策定して予備実験を実施しました。

2. これまでの主な成果

研究開発課題1:仏教文献調査と瞑想デザイン
(1) 瞑想アプリのナレーション等のコンテンツ作成
瞑想アプリでは、第一に心の自動思考(=拡張性)の抑制を目的に、「気づき」を基礎として重視し、同時に「慈しみ」の涵養を目指す21日間のコース瞑想を提供します(図1)。本瞑想アプリの特徴である、人のタイプに応じた瞑想コースの4種類(貪り、怒り、愚かさ、偏りなし)を作成し、伝統的な瞑想実践を踏まえた内容、順序、構成において作成しました。また、全期間を通して慈しみを養うための瞑想実践を取り入れました。さらには、東洋の人間観における多様な瞑想、目的別の瞑想も提供し、「孤独/不安」、「前向き」等の研究開発目標の実現を目指しました。加えて、これらの瞑想アプリの内容と東洋瞑想アーカイブとを連動させるための具体的な仕様について策定しました。
さらに、アプリでの瞑想実践の効果を実証し、信頼性を向上させるために、生体情報・DBM(デジタルバイオマーカー)を利用した検証方法を検討し、予備実験を実施しました(山本義春PI(東大教育学部教授)との連携。下記参照)。仏教文献では顔の表情や他者への言葉遣い等に関する記述が多数確認されます。そこで顔の表情、声色、インタビューの回答内容を対象とした新たな分析方法を持つ、ライプニッツ・レジリエンス研究所(ドイツ)のKalisch教授及びPuhlmann博士との共同研究の在り方の協議を進めました。
図1 実装する瞑想訓練の大枠
図1 実装する瞑想訓練の大枠
(2) コンテンツ作成に必要な瞑想リテラシーのアーカイブ作成
瞑想の向上と実践への動機付けによりアプリでの実践の持続的効果の促進を目指すため、伝統的な瞑想実践に関する情報とそれに基づく解説、現代の科学的な瞑想研究の知見や考察などの情報を整理し、提供の準備を開始しました(図2)。
図2 瞑想アプリと東洋瞑想アーカイブの対応関係
図2 瞑想アプリと東洋瞑想アーカイブの対応関係
研究開発課題2 スマホアプリによる大規模介入実験
(1) アプリ開発
大規模瞑想介入実験で用いるアプリについて、仕様をまとめ、開発が開始されました。アプリには、仏教文献調査から策定された訓練内容を忠実に再現することが求められます。また、数百人規模の介入実験に耐える仕様であることが必要となります。これらの要件を満たすため、瞑想実践のスケジュール機能、アンケートによる調査機能、介入プログラムを手軽にアップロードする機能など、さまざまな工夫がアプリには取り入れられる計画です。
(2) 瞑想訓練内容の雛形作成
アプリには最終的に、多種の瞑想訓練プログラムが実装される予定です。これまでに、それらプログラムのうち一件を完成させました。この介入プログラムは、Mindfulness-based Interventionと呼ばれる近年の瞑想介入パッケージに基づいたものです。早期に瞑想訓練の雛形といえる介入プログラムを作成することで、今後の瞑想訓練やアプリ開発を円滑化することが狙いです。また、本プロジェクトで新規に開発される瞑想プログラムと効果を比較することが可能となります。
(3) 実験デザインの策定
介入研究を行うための実験デザインを策定しました。使用する指標や測定のタイミングなどの詳細な手法を決めました。これらの決定内容をもとに、東京大学倫理委員会の審査を受け、実施の承認を得ました。
(4) 予備実験の実施
目標9における異なるプロジェクトの課題推進者である山本義春PI(東大教育学部教授)と連携し、予備実験を実施しました。3日間の瞑想研修への参加者を対象として実施し、使用予定の指標や実験デザインについて、所感や問題点を確認することができました。ごく限られた介入実践ではありましたが、不安感などの指標に関して、想定以上の効果が観察されました。

3. 今後の展開

瞑想の系統整理のため、文献調査を引き続き行います。また、仏教文献の調査に基づいた瞑想訓練の完成に向けて、具体的な瞑想指導ナレーションの作成に取り組んでいきます。並行してアプリの開発を進め、大規模介入研究へ着手します。さらに本年6月の瞑想リトリート(千葉)を契機に、ライプニッツ・レジリエンス研究所のKalisch教授及びPuhlmann博士との共同研究を開始します。