成果概要

東洋の人間観と脳情報学で実現する安らぎと慈しみの境地[2] ニューロフィードバック

2023年度までの進捗状況

1. 概要

本課題では、仏教を含む東洋の人間観と人工知能的な脳科学を総合知として捉え直すことで、こころの状態遷移を自ら観察できる機械と共生する新しい社会を目指した技術開発を行っています(図1)。そのためには、こころの状態遷移を十分に捉えることのできる時間解像度の高い可視化装置を開発します。さらに、参加者さんのニューロフィードバック学習に利用することで、外界に左右されぬ躍動性と安定性のバランスを脳ネットワークとして獲得することを目指します。

図1:本研究開発課題の概要図
図1:本研究開発課題の概要図

2. これまでの主な成果

脳の状態遷移の定量化

脳波(EEG)マイクロステートとは、近年再注目されている脳波の解析手法であり、事前にテンプレートと呼ばれるEEGの共通状態を抽出しておくことで、脳の状態遷移はこのテンプレート間の遷移として粗視化されます。従来の4つの極性を無視したテンプレートABCDから、極性間の状態遷移を反映した極性付き10状態(ABCDE±)に表現力を高めることを行いました(図2左)。このモデルによって、若年者と高齢者を区別できることが分かりました(図2右,青:若年優位,赤:高齢優位)。

図2:極性を考慮した10状態テンプレート(左)と若年-高齢者の弁別(右)
図2:極性を考慮した10状態テンプレート(左)と若年-高齢者の弁別(右)
フィードバック技術開発

EEGマイクロステートのような脳状態を事前に定義しておくことで、リアルタイム性を追求したフィードバック学習を可能にします(図3)。脳状態の瞬時的な10状態間の遷移を捉えるために、ニューロフィードバックシステムの高時間解像度化を実現しました。また、そのシステムの効果検証のため、実験参加者がトレーニングを開始しました。

図3:瞬時的遷移を拾うニューロフィードバックシステム
図3:瞬時的遷移を拾うニューロフィードバックシステム
脳の状態遷移を機械学習で解明

脳活動をシミュレートするWilson cowan型の生成モデル、および、脳活動データのアトラクター解析用の、pMEM(pairwise maximum entropy model)ベースのデータ駆動モデルを実装し、動作検証を行なっています(図4)。後者について、生成モデルとの連携がとりやすく、アトラクターの神経科学的解釈が可能な、電流源推定を組み合わせた手法を中心に検討をさらに進めます。

図4:EEG電流源推定を入力にしたpMEM解析
図4:EEG電流源推定を入力にしたpMEM解析

3. 今後の展開

今年度までの成果により、「極性付きの10状態間の遷移検出」を行う実装を行い、フィードバック訓練での強化対象とする特定の遷移を定義できるようにしました。その結果、既存のシステムよりも大幅にダイナミクスの表現力(空間パタンの分解能および時間分解能)が向上しました。また、機械学習によるアトラクター間遷移を定量化する検討も並行して進めていますので、その知見を今後のニューロフィードバックトレーニングへ統合することも想定されます。一方で、若年-高齢を弁別するような特定のバイオマーカが示唆されたとしても、それがトレーニングで強化できるかどうかは別の問題です。そのため、状態遷移の各成分に対する学習可能性をまず検証する必要があります。これらの知見を組み合わせることで、こころの安寧を実現するようなニューロフィードバックの実装を行い、最終的には、一般社会への還元的な成果を目指していきます。