成果概要

東洋の人間観と脳情報学で実現する安らぎと慈しみの境地[2] ニューロフィードバック

2024年度までの進捗状況

1. 概要

本課題では、仏教を含む東洋の人間観と人工知能的な脳科学を総合知として捉え直すことで、こころの状態遷移を自ら観察できる機械と共生する新しい社会を目指した技術開発を行っています(図1)。そのためには、こころの状態遷移を十分に捉えることのできる時間解像度の高い可視化装置を開発します。さらに、参加者さんのニューロフィードバック学習に利用することで、外界に左右されぬ躍動性と安定性のバランスを脳ネットワークとして獲得することを目指します。

図1
図1:本研究開発課題の概要図

2. これまでの主な成果

脳の状態遷移の定量化

脳波(EEG)マイクロステートとは、近年再注目されている脳波の解析手法です。時空間的に連続したダイナミクスを、テンプレートと呼ばれるEEGの共通状態を事前に抽出しておくことで、脳の状態遷移はこのテンプレート間の遷移で表現されます。我々はこれまでに、極性を考慮した状態を反映した10状態(ABCDE±)に粗視化することを行いました(図2左)。このモデルによって、若年者と高齢者の状態遷移を定量的に区別できることが分かりました(図2右,青:若年優位,赤:高齢優位)。

図2
図2:極性を考慮した10状態テンプレート(左)と若年-高齢者の弁別(右)
フィードバック技術開発

EEGマイクロステートのような脳状態を事前に定義しておくことで、リアルタイム性を追求したフィードバック学習を可能にします。我々がこれまでに開発したリアルタイムフィードバックシステムを使って、特定の回転成分を強化するトレーニングを行ったところ、学習しやすい遷移方向とそうでない方向の特定に成功しました(図3)。

図3
図3:ニューロフィードバック訓練による学習可塑性
脳の状態遷移を機械学習で解明

脳活動をシミュレートするWilson cowan型の生成モデルを使い、fMRIの振る舞いを考慮して生成したEEGデータがどの程度、実際のEEGと一致しているかについて検証しました。マイクロステートのテンプレートが4つの場合、生成データとの空間相関は平均で0.50、5つの場合は0.45と、比較的高い類似性を得ることができました。

図4
図4:EEGの実データと生成データから抽出したマイクロステート

3. 今後の展開

今年度までの成果により、極性付き10状態間の遷移検出を行うシステム実装を行い、フィードバック訓練での効果検証を実施しました。その結果、既存のシステムよりも大幅にダイナミクスの表現力(空間パタンの分解能および時間分解能)が向上し、このシステムを使った学習効果も確認できています。また、生成モデルで実際のEEGに近いデータを生成できることが分かり、その知見を今後のニューロフィードバックトレーニング開発へ役立てることも想定されます。今後は、どのような遷移を強化することがポジティブな効果をもたらすのか、また、その遷移はどのくらいのトレーニングを要するのか、の検証が必要です。これらの知見を組み合わせることで、こころの安寧を実現するようなニューロフィードバックの実装を行い、最終的には、一般社会への還元的な成果を目指していきます。