成果概要

東洋の人間観と脳情報学で実現する安らぎと慈しみの境地[1] データ駆動モデル化

2023年度までの進捗状況

1. 概要

データ駆動で個性のタイプ分けをするモデルを構築するために、その構築の基礎となる「軽重ミックスデータベース」(図1)の構築を開始した。具体的には、「軽」の部分を構成するアンケート・質問項目、スマホによる日常行動計測において、調査する項目を策定し、1回目の大規模調査を実施した。「重」の部分を構成する脳画像データの計測実験を実施した。

2. これまでの主な成果

研究開発課題1:データ駆動によるモデル構築
(1)「軽重ミックスデータベース」の基本的なデザインの策定
インターネット・スマホを用いた大規模調査で収集する項目について、研究開発課題3と協働し様々な精神症状の軸で健常者のサブタイプの同定に成功している実績をもとに9種類の臨床評価尺度を策定し、研究開発課題2および社会実装チームとの協働で安らぎと活力に関する質問紙を決定した。予備調査後を経て最終仕様を策定し、倫理承認後、1回目の大規模調査および行動計測実験を実施した。
図1: 軽重ミックスデータベースの概要
図1: 軽重ミックスデータベースの概要
(2)安らぎと活力に関する個性のタイプ分けを行うモデルをデータ駆動で構築
「重い」データである脳画像(MRI)データについて、課題3と協働して撮像プロトコルの策定を行い、構造画像(T1 強調画像、 T2強調画像、拡散強調画像)および機能画像(安静時)と補正のためのfieldmap画像を26名から収集した。また同時に、「軽い」データと「重い」データの中間に位置づけられる、認知機能を測定する行動バッテリーや、意思決定の個人特性を調べるための行動課題を実施した。撮像したMRIデータは、構築したデータベースシステム(XNAT)へ格納した。
研究開発課題2:インターネット・スマホを用いた大規模調査

研究開発課題2・3および研究開発項目3(社会実装T)の2課題と共同して策定を行ない、オンラインアンケートならびに行動計測実験の予備調査を2,068名に実施した。さらにアンケート調査回答者より行動計測実験対象者130名を選定し、行動計測調査を実施した。予備調査後を経て最終仕様を策定し、1回目の大規模調査および行動計測実験として7,044名を対象に本調査を、また301名を対象に行動計測および経験サンプリング実験を実施した(図2)。

図2: スマートフォンを用いた行動計測と経験サンプリング
図2: スマートフォンを用いた行動計測と経験サンプリング
研究開発課題3:データ駆動型解析の最適化

構築したデータベースシステムへ格納したデータにアクセスし、統一的な前処理を実施できるパイプラインのdockerを構築した。この解析コードを使用し、オープンデータ・新規取得データの解析を行い、体動成分の影響を除去できていることを確認した。また、脳画像からのタイプ分けアルゴリズムの候補として開発したHierarchical supervised /unsupervised learningを用いてサブタイプ分けを行った。うつ病の判別に有用であった機能的結合を用いてサブタイプ分けを行った結果、安らぎ・活力と関連する特性(人生の満足度)や認知機能(注意機能)などにおいて、サブタイプ間での有意差を同定することができた。また、このサブタイプ間差は、体動アーチファクトによるものではなく、最適な機能的結合本数に特異的なものでもなかった。

図3: 機能的結合本数とうつ病と関連する特性におけるサブタイプ間差の関係性
図3: 機能的結合本数とうつ病と関連する特性におけるサブタイプ間差の関係性

3. 今後の展開

2回目の大規模調査を実施し、アンケート・行動計測データ・脳画像・認知課題を格納した「軽重ミックスデータベース」を完成させる。構築したデータベース内で安定した個人特性のタイプを見出す。