成果概要

台風制御に必要な予測と監視に貢献する海の無人機開発[2] 強風雨波浪環境対応の大気海洋観測センサー群開発

2023年度までの進捗状況

1. 概要

VM(Virtual Mooring)ドローンに艤装した上で、台風中心付近における大きな船体動揺環境下でも十分な精度を保持し、かつ一時的な水没や大雨に対しても耐えうる防水機能を有する大気海洋観測センサー開発を行う研究開発テーマです。観測センサー単体の技術開発はもちろんのこと、船体へ艤装後の運用試験が必須であるため、研究開発テーマ1とも緊密に連携しています。
初(2022)年度に大気観測センサー類の防水加工やラボ検定、水槽試験等を行った上で、本(2023)年度には海洋観測センサーも加えた国内沿岸海域試験(海上での防水性能確認および船体動揺影響の補正等)を繰り返し行った後、海洋地球研究船「みらい」熱帯北西太平洋航海を用い、フィリピン東方沖における初の短期外洋試を行ないました。

図1 「みらい」熱帯北西太平洋航海における、VMドローン試作2号機に艤装された改修済み大気センサー(赤破線丸)と海洋センサー(黄破線丸)。試作機の外洋展開前には、観測センサー類やデータ通信機器等の入念な点検を行います。
図1 「みらい」熱帯北西太平洋航海における、VMドローン試作2号機に艤装された改修済み大気センサー(赤破線丸)と海洋センサー(黄破線丸)。試作機の外洋展開前には、観測センサー類やデータ通信機器等の入念な点検を行います。

2. これまでの主な成果

  • ①前(2022)年度に引き続き国内沿岸試験を繰り返し、大気観測センサーの防水性能や船体動揺に伴う補正手法等について改良を行ないました。また、新たに(ウインチは未実装ながら)海洋観測センサーも試作機に艤装し、運用試験を開始しました。
  • ②海洋地球研究船「みらい」熱帯北西太平洋航海を用い、主たる台風発生海域である夏季(6-7月)フィリピン東方沖にて短期外洋試験を行ないました。
  • ③VMドローン試作機による大気海洋データは問題なく取得され、真値である「みらい」観測データ等と比較検討を行ないました.試験期間は風も弱く(< 10m/s)、有義波高も低い(約1m)、比較的静穏な環境であったものの、十分な精度で観測できていることが確認できました。
図2 海洋地球研究船「みらい」(右図)のフォアマスト頂部に設置された海上気象計測システムSOAR(海面高度23m)(赤実線丸)、および船底部に設置されている表層海水分析装置(水深5m)のおおよその位置(赤破線丸).フォアマスト全景(左図)と外洋試験中のVMドローン試作機の遠景(黄実線丸)。
図2 海洋地球研究船「みらい」(右図)のフォアマスト頂部に設置された海上気象計測システムSOAR(海面高度23m)(赤実線丸)、および船底部に設置されている表層海水分析装置(水深5m)のおおよその位置(赤破線丸).フォアマスト全景(左図)と外洋試験中のVMドローン試作機の遠景(黄実線丸)。
図3
図3 VMドローン試作2号機(VMD,赤線)および「みらい」(Mirai 青線)で取得された大気観測データの比較検証例(左:気圧,右:風速,2023年7月15日)で、気圧は海面高度、風速は10m高度に更正された上で比較されています。
  • 気圧については両者の変動傾向はほぼ一致しており、おおよそ0.5 hPaのバイアスが認められることが分かりました。
  • 風速については、ほぼ1m/s以内の差で一致していますが、誤差の傾向が時間帯によって大きく異なることから、その要因を検討中です。

3. 今後の展開

これまでの各種試験結果に基づき改良した大気海洋センサー類(海洋センサーについてはウインチを実装予定)を艤装したVMドローン試作機により、最終(2024)年度の「みらい」を用いた長期外洋試験を行ないます。当初は熱帯北西太平洋航海(6-7月)での試験を予定していましたが、台風付近による荒天(強風高波環境)で試験できる可能性が低いことが判明したため、確実に荒天に遭遇することができるであろう秋季(10-11月)の「みらい」北太平洋航海(ベーリング海)での試験に変更を検討中です。荒天下における各観測センサーの耐候性能や観測精度を確認すると共に、本要素研究プロジェクト終了後における本格運用に向けてコア研究への合流など開発継続を目指します。