成果概要

台風制御に必要な予測と監視に貢献する海の無人機開発[1] 強風雨波浪環境対応のVirtual Mooring(VM)技術開発

2024年度までの進捗状況

1. 概要

海上無人観測機(USV: Unmanned Surface Vehicle) として、台風中心付近で運用可能な船体、マスト、セイル等の基礎設計に加え、海上風および海流に基づき自律的な航行と仮想係留(VM: Virtual Mooring)を可能とする技術開発であり、本プロジェクトの最も基本的な研究開発項目です。VM機能や船体単体の技術開発はもちろんのこと、大気海洋観測センサー運用試験のために船体艤装が必要なため、研究開発項目2とも緊密に連携しています。昨(2023)年度までにVM機能や帆船型船体の基本設計、試作機による水槽試験や国内沿岸海域試験のほか、海洋地球研究船「みらい」熱帯北西太平洋航海を用いたフィリピン東方沖における初の外洋試験を行い、衛星通信による船体制御やデータ受信、および外洋における航行性能等を確認しました。
その上で、本(2024)年度は台風相当の強風波浪環境における対候性を確認するための最終外洋試験を行いました。

図1
図1 当初計画におけるVMドローン試作機の本体概要。各種試験に基づき改良が進められており、今後さらに仕様変更の可能性があります。

2. これまでの主な成果

  • ①初(2022)年度は、VMドローン試作0号機による水槽試験など各種試験結果に基づき試作1号機を製作し、国内沿岸海域試験を繰り返した上で、船体構造や制御ソフトウェアの改良を進め、航行性能の向上を図りました。
  • ②次(2023)年度には試作2号機を製作した上で、海洋地球研究船「みらい」熱帯北西太平洋航海を用い、台風発生域である夏季(6-7月)フィリピン東方沖にて短期外洋試験を行ない、衛星通信経由での船体制御や航行性能、観測データ通信状況等を確認しました。一方で、試験期間は好天が続き、期待していた強風波浪環境での性能確認には至りませんでした。
図2
図2 VMドローン試作機、2号機(左)3号機(右)の比較対候性や航行性能の改善を図り、最終(2024)年度「みらい」西部北太平洋/ベーリング海での外洋試験に投入されました。
  • ③今(2024)年度には対候性能および航行性能の改善を図った試作3号機を製作し、台風相当(最大風速>17m/s)の強風波浪環境における最終外洋試験を行いました。
    外洋試験の海域選定にあたっては、台風相当の強風波浪環境が最も期待できる海域として、(台風発生発達域ではないものの)秋季(10⁻11月)の西部北太平洋/ベーリング海が選定されました。「みらい」甲板上から展開されたVMドローン試作3号機は、横揺れ角70°に達する厳しい環境にもかかわらず、十分な船体制御や航行性能、観測データ通信等の対候性を示すことができました。
図3
図3 「みらい」西部北太平洋/ベーリング海航海で展開されたVMドローン試作3号機で、「みらい」甲板上から視認できる距離内における比較的おだやかな航行状態を示しています。

3. 今後の展開

今後の開発課題としては、台風中周辺域における長期間運用であり、そのためにも沖縄など日本沿岸域から「自律的な帰港(回収)」を前提とした外洋試験が欠かせません。一方で、VMドローン試作機は、昨(2023)年度から経済安全保障重要技術育成プログラム(K Program)「海面から海底に至る空間の常時監視技術と海中音源自動識別技術の開発」にて開発するUSVのベースモデルとして採用されており、民間企業との協業も検討されています。運用環境は全く異なるものの、技術的ベースを同一としたUSVとして、今後も連携協力体制を推進する予定です。