成果概要

大規模自由度場のアクチュエータ位置最適化[3] 気象シミュレーションによる最適化アクチュエータ配置の評価方法構築

2023年度までの進捗状況

1. 概要

この研究テーマでは、最適化したアクチュエータ位置での入力により、気象場がどの程度改変できるかを評価するための気象シミュレーション技術を構築します。このプロジェクトで改変・制御しようとする気象場は、線状降水帯などの極端気象です。このような気象現象は、現在の技術では計算機上で再現すること自体が容易ではなく、現象自体も活発に研究されている状況にあります。そのため、気象シミュレータ上で極端気象場に入力を加えてその効果を検証するには、まずは極端気象をある程度現実的に再現できるようにする必要があります。また、気象モデルは様々なものがあり、それぞれ特徴が異なるため、どの気象モデルを選択するかも重要な点です。本テーマでは、利用する気象モデルや計算に必要な境界条件や計算領域の大きさ、解像度などの様々なパラメタを明らかにし、現実的な計算コストで極端気象を再現してアクチュエータによる入力の効果を適切に評価する技術を構築します。また、当プロジェクトで開発したアクチュエータ位置最適化手法を気象シミュレータ上で適用し、その効果を検証します。

2. これまでの主な成果

これまでに、気象モデルの選定と試験的なシミュレーションを実施しました。気象モデルとしては、米国のNCAR (National Center for Atmospheric Research)を中心に開発されたWRFを中心に研究を進めています。これは、WRFには入力に対する感度を計算する典型的な手法で必要な随伴モデルが用意されており、当プロジェクトで開発しているアクチュエータ位置最適化手法も随伴モデルの利用を前提としたものであることに起因します。
図1はWRFPLUSにより2018年7月に西日本で発生した集中豪雨に対して感度解析を行った例です。ただし,計算コストを抑えるために狭い領域に限定して計算を行っています。7月5日の正午から6時間分の計算を行い、それをベースの軌道とし、地表の水蒸気量の積算雨量に対する感度を算出しました。地表の水蒸気量にランダム撹乱を印加して接線モデルで時間積分し、積算雨量に関してその終端状態を随伴モデルの初期場として入力して計算しています。

対象事例の36時間の積算降雨量
対象事例の36時間の積算降雨量
感度解析を行った6時間の積算降雨量
感度解析を行った6時間の積算降雨量
接線モデルの終端状態(積算雨量)
接線モデルの終端状態(積算雨量)
随伴モデルの終端状態(地上の水蒸気量)
随伴モデルの終端状態(地上の水蒸気量)

図1:2018年7月に発生した西日本豪雨を対象として、積算雨量に対する地表の水蒸気量の感度を解析した例

接線モデルの終端状態の図は広島県と岡山県の県境付近での降水量が擾乱によって大きく変化し、随伴モデルの終端状態の図はその変化が風上側である南西側の水蒸気量の変化で起こることを示しています。
また、WRFモデルによる通常の非線形シミュレーションの初期状態に対して任意の入力を印加して気象シミュレーションを実施するためのツールの構築も進めました。現状では、初期場に介入して水蒸気量を変化させ、その影響をシミュレーション上で計算できることを確認しました。限定された場所での入力への対応は現在進めているところですが、最終年度に向けて開発したアクチュエータ位置最適化手法の有効性を気象シミュレータ上で検証する準備が整いつつあります。

3. 今後の展開

今後は、集中豪雨が発生する複数の異なるシナリオにおいて、シミュレータ上で再現した極端気象場に対してアクチュエータ位置を最適化する計算を行います。計算では、本テーマで構築したWRFモデルを用いた感度解析ツールと当プロジェクトの別の研究で開発した乱択特異ベクトル法と組み合わせることで、気象場のような大規模自由度場においても効率的に入力に対する感度分布のモードを算出できることを実証します。さらに、同じく当プロジェクトの別のテーマで開発したアクチュエータ位置最適化アルゴリズムと組み合わせることで、アクチュエータの配置に適した場所を選択します。選択した場所で水蒸気量などに対して介入を行い、気象場をどの程度変化させられるか、アクチュエータをランダムに配置した場合や物理的洞察に基づいて配置した場合と比較してより小さい入力で大きく場を変化させられるかを確かめていきます。また、入力により気象場が変化するメカニズムを調べることで、より効果的な介入方法の検討などが可能になると期待されます。