成果概要

大規模自由度場のアクチュエータ位置最適化[2] アクチュエータ位置最適化の数理問題の定式化

2023年度までの進捗状況

1. 概要

気象場を効率的に変動させるようなアクチュエータ位置を求めるために、アクチュエータ位置最適化問題を定式化します。評価指標を明確にすることでアクチュエータ配置の良し悪しを定量的に評価できるようになり、それに基づいてアクチュエータ配置を最適に決定するアルゴリズムの開発が可能となります。定式化された数理問題が複雑すぎると、大規模自由度場である気象場に対するアクチュエータ配置問題に解を与えることが困難となるため、アルゴリズム開発のテーマと協調しながら、数値解法の開発が可能な程度に簡便な数理問題を定式化します。

2. これまでの主な成果

(1)線形時不変システムに対するアクチュエータ位置最適化問題の解析

線形時不変システムにおいて双対の関係となるアクチュエータ位置最適化問題とセンサ問題の目的関数の関係を利用し、アクチュエータ位置の最適化アルゴリズムの目的関数を精査しました。入力としてインパルス入力および連続区間入力、出力として終端時間出力および連続区間出力の変化の大きさを利用した場合に、これらの関係を表す行列によってアクチュエータ位置の効果を評価できることを明らかにしました。特殊な場合にこれらの行列が制御理論でよく知られているグラミアンと一致します。例えば、連続区間での制御入力信号を考え、入力のエネルギーに制約を設けると、状態の可到達集合の大きさは可制御性グラミアンの大きさに対応します (図1上)。さらに、これらの行列の大きさを評価する指標を考え、センサ位置最適化で使用される既存の指標との関係や、指標間の大小関係を明らかにしました(図1下)。

図1: 線形時不変システムの可到達集合とその評価指標
図1: 線形時不変システムの可到達集合とその評価指標
(2)非線形システムのためのアクチュエータ位置最適化問題の定式化

成果(1)では解析を簡単にするために、線形時不変システムをモデルとして用いましたが、プロジェクトの対象である気象場は非線形システムとして記述することが適当です。そこで、非線形システムのための問題を定式化しました。
非線形性を考慮するため、アンサンブル特異ベクトル法を利用したアクチュエータ位置最適化手法を検討しました。この手法では、非線形モデルを用いて複数の粒子に対して予測を行い、入出力の感度が大きいモードを計算することで低次元化が可能です。さらにこの手法は、随伴モデルが必要ないという利点があります。しかし、随伴方程式を利用しないために、アクチュエータ位置を決定するために重要な右特異ベクトルが正確に計算されないという問題点があることを明らかにしました。
加えて、非線形システムの接線系に基づくアクチュエータ位置最適化問題の定式化を行いました。気象場を想定した非線形システムに微小な制御入力を印加したときの変動は接線モデルによって記述されます。成果(1)で得られた線形時不変システムに対する知見を活かし、線形時変システムである接線モデルにおける可到達集合を最大化するアクチュエータ位置最適化問題を構成しました (図2)。この問題では、随伴モデルを利用して特異値分解をする必要がありますが、計算複雑性は低く、大規模システムに対しても高速にアクチュエータ配置ができます。

図2: 接線モデルを利用した問題の概要
図2: 接線モデルを利用した問題の概要

3. 今後の展開

プロジェクトが残り1年で終了を迎えることを踏まえ、右特異ベクトルの計算精度に課題があることが判明した、非線形モデルに基づく問題ではなく、随伴モデルを利用する接線系に基づく問題に基づくアクチュエータ配置をプロジェクト全体としては進めていきます。一方で、制御によって場が大きく変化する場合には非線形モデルに基づく問題が重要となるため、将来を見据えて、本テーマでは接線モデルに基づく問題だけでなく、非線形モデルに基づく問題についても引き続き検討を続けていきます。