成果概要

大規模自由度場のアクチュエータ位置最適化[1] アクチュエータ位置最適化アルゴリズムの開発とモデル問題および気象問題への適用

2024年度までの進捗状況

1. 概要

気象場は大きな自由度を持つシステムであるため、シミュレーションを一度行うだけでも、長い計算時間がかかります。このため、アクチュエータ選択のために膨大な数の気象シミュレーションを行うアルゴリズムは現実的ではありません。本テーマでは、そのような大規模システムに対しても適用可能なアクチュエータ位置最適化アルゴリズムを数学的に定式化された問題に従って開発します。アルゴリズムの性能を効率的に評価するために。比較的規模の小さいシステムのシミュレーションモデルをアルゴリズムの開発と並行して構築します。このテストモデルに対して開発したアルゴリズムによって選択された位置でのアクチュエーションがランダムに選択された位置でのアクチュエーションよりも99%以上の確率で場を大きく変更できることを示します(図1)。最終的に気象モデルに対してもアクチュエータ位置最適化アルゴリズムを適用し、提案手法が有効であることを示します。

図1
図1: 開発する最適化手法の目標

2. これまでの主な成果

これまでのセンサ位置最適化アルゴリズムの成果に基づき、双対の関係を利用して線形モデルに対するアクチュエータ位置最適化アルゴリズムを提案しました。その上で、線形化Ginzburg-LandauモデルやLorenz96モデル等の比較的小規模な数理モデルから、非圧縮性軸対称噴流といった大規模な問題、さらには気象場に対して提案手法を適用し、その有効性を示しました。
まず、インパルス入力を受ける線形時不変システムに対するアクチュエータ位置最適化アルゴリズムを提案しました。提案手法では、感度モードに関する行列の行列式を貪欲法に基づいて最大化します。提案手法を線形化Ginzburg-Landauモデルに適用し、多様なモードを含む出力を生み出せることを示しました(図2)。さらに、乱択特異値分解を利用して感度モードを計算することで、圧縮性軸対称噴流といった大規模なシステムに対しても提案手法を適用できることを示しました。
次に、線形時変システムに対するアクチュエータ位置最適化アルゴリズムを提案しました。線形時変システムは、気象現象等の非線形システムの摂動システムと考えることができるため、気象場に対するアクチュエータ位置最適化を行う上で、より実践的な問題設定となります。提案手法では、評価出力の時系列を低次元化した上で、制御入力のエネルギが一定以下になるという制約のもと、評価出力の可到達集合を最大化するようにアクチュエータ位置を最適化します。提案手法を用いてLorenz96モデルの異常値を抑制する制御を行い、提案手法が有効であることを示しました(図3)。

図2
図2: 線形化GLモデルのアクチュエータ配置
図3
図3: Lorenz96モデルの応答

さらに、WRF(Weather Research & Forecasting Model)と呼ばれる気象シミュレータを利用して、乱択特異ベクトル法のアルゴリズムを構築し、気象場に対してアクチュエータ位置最適化を行いました。提案手法に基づいてアクチュエータを配置すると、直感的あるいはランダムに配置した場合よりも、制御効果が高いことを示しました(図4-7)。

図4
図4: 感度モード
図5
図5: アクチュエータ配置
図6
図6: 降水量の変動量
図7
図7: 変動量の確率密度