成果概要

気象制御のための制御容易性・被害低減効果の定量化1. 数理研究班:気象制御容易性の定量化

2022年度までの進捗状況

1.概要

本研究では、台風の進路分岐など気象現象の中に存在する「分水嶺」の存在に注目した研究を進めています。分水嶺のある現象では、少しの操作で望ましい方向に誘導できる制御のツボがある可能性があります。しかし、超大次元の気象データにある「分水嶺」の探索には、技術的困難を伴います。我々は深層学習などの数学・情報科学的手法を用いた高次元の気象データを低次元化し、気象制御容易性の定量化を目指しています。またランドスケープ解析による流れの分岐点検出の研究を実施し、分水嶺及び効率的な介入が可能であろう鞍部の検出手法開発を進めています。
一方で、分水嶺のある現象であっても、軌道の制御に有効な操作が無いと、望ましい軌道への移動が難しい、という困難に直面します。そこで我々は、モデル予測制御(Model Prediction Control、以下MPC)と呼ばれる手法を用いて、有効な操作を開発する取り組みを行っています。

図1 数理研究班の研究開発計画
図1 数理研究班の研究開発計画

2.2022年度までの成果

[低次元化技術開発]

数理・情報系の課題推進者が調査・検討する様々な低次元化手法を気象・地球科学データに適用する戦略で研究開発を進めました。その結果、極端気象の制御においてネックになっている気象シミュレーションに特有な大次元データの扱いが可能となり、意思決定や効率的な介入方法の特定に貢献することが期待されています。

[ランドスケープ解析]

気象データを「クラスタリング」手法を用いて分解して「有向グラフ」を作成し、さらにそれを「グラフホッジ分解」手法を用いて「ポテンシャル」を導き、分水嶺及び制御のツボを検出するアルゴリズムの開発を推進しました。我々は、2020年に発生した台風12号に適用し分析を実施しました。その結果、図2にある通り台風12号のランドスケープの可視化まで導くことに成功し、分水嶺のある気象事象であることが確認され、さらに効率的な介入が可能と思われる鞍部の位置に関しても示唆することができました。

図2 2020年台風12号のランドスケープ
図2 2020年台風12号のランドスケープ
[MPCの導入による制御手法開発]

カオス力学制御研究において、望まれるレジームに誘導するControl Simulation Experiment (CSE)という手法が提案されています。ただ、CSEでは、必要な摂動を見つけるために、長期のアンサンブル予測が必要になります。一方、本研究では、データ同化にMPCを導入することで、システムを望ましい状態に導く手法開発を推進しました。Lorenz-63モデルに対して行った初期実験では、長期の予測を用いることなく、より少ない制御入力で望ましい軌道へ誘導することが可能であることが示されました。

図3 Lorenz-63の誘導実験結果
図3 Lorenz-63の誘導実験結果

3.今後の展開

初年度に開発したアルゴリズムを利用して、過去の実際の災害事例に関して、分水嶺の有無や制御の容易さを数値化する取り組み事例の数を増やし知見を高めます。 また、データ同化研究班が開発しているより長期の大規模なアンサンブル気象予測を活用して、低次元化技術の更なる高度化研究を進めます。
MPC制御に関しては、膨大な計算コストや非凸最適問題の解決のために、量子アニーリング計算機を含めた最先端の研究開発を進める方針です。