成果概要
ゲリラ豪雨・線状対流系豪雨と共に生きる気象制御[3] 豪雨制御の影響評価と社会受容性の研究
2024年度までの進捗状況
1. 概要
豪雨制御を実施した際における自然への影響を推定する第一歩として、豪雨制御シナリオをたてて豪雨制御による洪水流制御効果を評価します。豪雨制御することによって雨域が移動し、他の流域で洪水や渇水が発生してしまうといったリスクを考慮しなければなりません。水文社会が受ける影響を推定し、住民の行動変化を考慮した水文社会がどのように変化するのかを評価します。
さらに、地域住民が新しい制御技術を通して気象資源を主体的に活用・保全しながら、豪雨と共に暮らしていくための協働のしくみを「気象コモンズ」として捉える概念モデルを構築すると共に、その成立要件を明確化します(図1)。その考え方に基づきELSI/RRI課題に対する社会的・制度的対応シナリオを構築します。
そして自然への畏敬や自然との共存などといった「自然の懐に住む」という意識が国民に浸透し、「自然の懐を借りて人が生きる」という範囲の中で、豪雨制御の適用範囲を決めていきます。

2. これまでの主な成果
① 豪雨制御による洪水・氾濫抑制への効果
九州北部を対象に豪雨制御シミュレーションの計算結果を降雨流出モデルに入力し、流域平均雨量および洪水ピーク流量への制御効果を分析しました。その結果、最も流域平均雨量の大きかった流域において洪水規模を最大20%程度減少できることがわかりました(図2)。

② 気象制御を想定した具体的なELSI課題の検討
ELSIとは倫理的、法的、社会的課題であり、自然という不確実性、環境への影響、住民の防災意識への影響などを考慮することが大切です。2017年7月九州北部豪雨を対象事例として、気象制御の導入を想定し、気象制御の実施シナリオを検討すると共に、具体的なELSIの抽出・対応を図るための枠組みを作成しました。また、今後の小規模屋外実験の実施に向けた企画立案や地域協働の検討フローを図3のように整理しました。

③ 気象コモンズの理論的検討
技術開発を前提にELSIを考えるのではなく、社会像中心で技術開発を考える意識をプロジェクト全体で共有しました。コモンズの資源管理に関する既存知見を踏まえて、気象コモンズのガバナンス問題として、地域住民・関係者の“コモナー”としての主体性形成、気象・災害との共生的な関係性の構築、地域コミュニティ実践に基づく非規範的倫理の形成、技術開発における市民参加をはじめとした検討課題を整理しました。また、「気象制御」という表現に関して、気象コモンズの考え方(伝統的な自然観や社会受容性)に基づく言葉を検討し、「豪雨を鎮める」という表現を提唱し、気象コモンズの理論的検討を行いました(図4)。

3. 今後の展開
豪雨制御の程度を変えた複数シナリオをたてて洪水流制御効果を評価します。気象コモンズの形成に向けた自立共生的な制御技術の評価手法を確立します。ELSI課題に対する社会的・制度的対応シナリオを構築します。