成果概要

ゲリラ豪雨・線状対流系豪雨と共に生きる気象制御[3] 豪雨制御の影響評価と社会受容性の研究

2023年度までの進捗状況

1. 概要

豪雨制御を実施した際における自然への影響を推定する第一歩として、豪雨制御シナリオをたてて豪雨制御による洪水流制御効果を評価します。豪雨制御することによって雨域が移動し、他の流域で洪水や渇水が発生してしまうといったリスクを考慮しなければなりません。水文社会が受ける影響を推定し、住民の行動変化を考慮した水文社会がどのように変化するのかを評価します。
さらに、地域住民が新しい制御技術を通して気象資源を主体的に活用・保全しながら、豪雨と共に暮らしていくための協働のしくみを「気象コモンズ」として捉える概念モデルを構築すると共に、その成立要件を明確化します。その考え方に基づきELSI/RRI課題に対する社会的・制度的対応シナリオを構築します。
そして自然への畏敬や自然との共存などといった「自然の懐に住む」という意識が国民に浸透し、「自然の懐を借りて人が生きる」という範囲の中で、豪雨制御の適用範囲を決めていきます。

図1 「気象コモンズ」の理念図
図1 「気象コモンズ」の理念図

2. これまでの主な成果

① 豪雨制御による洪水・氾濫抑制への効果

2008年の神戸市都賀川のゲリラ豪雨、および、2017年九州北部豪雨を対象に豪雨制御によって降水量が減少したと想定した場合の氾濫浸水深・ダム貯水量への影響を評価しました。当該水害が河川敷内の水難事故によるものであったことから、降雨強度の減少割合と避難を左右する流体力指標である単位幅比力との関係を整理してゲリラ豪雨による水難事故を防ぐために必要な豪雨制御を検討しました。

図2 阪神地域の洪水浸水想定区域および暴露世帯数(左)と強度減少割合と河川内の単位幅比力の計算結果(右)
図2 阪神地域の洪水浸水想定区域および暴露世帯数(左)と強度減少割合と河川内の単位幅比力の計算結果(右)
② ELSI課題の課題解決に向けた戦略検討

ELSIとは倫理的、法的、社会的課題であり、自然という不確実性、環境への影響、住民の防災意識への影響などを考慮することが大切です。3つあるコア研究のELSI横断検討チームにより、台風・豪雨制御のELSI課題を整理して、図3のような6つの課題に分類しました。

③ 気象コモンズの理論的検討

技術開発を前提にELSIを考えるのではなく、社会像中心で技術開発を考えることをプロジェクト全体で意識共有しました。コモンズの資源管理に関する既存知見を踏まえて、気象コモンズのガバナンス問題として、地域住民・関係者の“コモナー”としての主体性形成、気象・災害との共生的な関係性の構築、地域コミュニティ実践に基づく非規範的倫理の形成、技術開発における市民参加をはじめとした検討課題を整理しました。また、「気象制御」という表現に関して、気象コモンズの考え方(伝統的な自然観や社会受容性)に基づく言葉を検討し、「豪雨を鎮める」という表現を提唱し、気象コモンズの理論的検討を行いました。

図3 ELSI論点の俯瞰図(3つあるコア研究のELSI横断検討チームによる成果)
図3 ELSI論点の俯瞰図(3つあるコア研究のELSI横断検討チームによる成果)
図4 気象コモンズにおける階層性
図4 気象コモンズにおける階層性

3. 今後の展開

豪雨制御の程度を変えた複数シナリオをたてて洪水流制御効果を評価します。気象コモンズの形成に向けた自立共生的な制御技術の評価手法を確立します。ELSI課題に対する社会的・制度的対応シナリオを構築します。