成果概要

ゲリラ豪雨・線状対流系豪雨と共に生きる気象制御3. 豪雨制御の影響評価と社会受容性の研究

2022年度までの進捗状況

1.概要

豪雨制御を実施した際における自然への影響を推定する第一歩として、豪雨制御シナリオをたてて豪雨制御による洪水流制御効果を評価します。豪雨制御することによって雨域が移動し、他の流域で洪水や渇水が発生してしまうといったリスクを考慮しなければなりません。水文社会が受ける影響を推定し、住民の行動変化を考慮した水文社会がどのように変化するのかを評価します。
さらに、地域住民が新しい制御技術を通して気象資源を主体的に活用・保全しながら、豪雨と共に暮らしていくための協働のしくみを「気象コモンズ」として捉える概念モデルを構築すると共に、その成立要件を明確化します。その考え方に基づきELSI/RRI課題に対する社会的・制度的対応シナリオを構築します。
そして自然への畏敬や自然との共存などといった「自然の懐に住む」という意識が国民に浸透し、「自然の懐を借りて人が生きる」という範囲の中で、豪雨制御の適用範囲を決めていきます。

図1 「気象コモンズ」の理念図
図1 「気象コモンズ」の理念図

2.2022年度までの成果

① 豪雨制御の洪水・水資源への影響評価

気象制御による浸水被害の変化をみるため、どこにどれくらい脆弱なエリアがあるか、過去の被災状況や土地利用計画との整合性を調べる必要があります。そのため、災害リスクに係る基礎情報について神戸市および九州北部を対象に行政保有のオープンデータや民間保有の市販データを過去10年分ほど収集・整理しました。

図2 洪水浸水想定区域および暴露世帯数(阪神地域)
図2 洪水浸水想定区域および暴露世帯数(阪神地域)
② ELSI課題の課題解決に向けた戦略検討

ELSIとは倫理的、法的、社会的課題であり、自然という不確実性、環境への影響、住民の防災意識機構への影響など本研究の豪雨制御において考慮しなければならない課題になります。3つあるコア研究のELSI横断検討チームにより、台風・豪雨制御のELSI課題を整理して、図3のような6つの課題に分類しました。

図3 ELSI論点の俯瞰図(3つあるコア研究のELSI横断検討チームによる成果)
図3 ELSI論点の俯瞰図
3つあるコア研究のELSI横断検討チームによる成果
③ 気象コモンズの位置づけの検討

技術開発を前提にELSIを考えるのではなく、社会像中心で技術開発を考えることをプロジェクト全体で意識共有しました。コモンズの資源管理に関する既存知見を踏まえて、気象コモンズのガバナンス問題として、地域住民・関係者の“コモナー”としての主体性形成、気象・災害との共生的な関係性の構築、地域コミュニティ実践に基づく非規範的倫理の形成、技術開発における市民参加をはじめとした検討課題を整理しました。また、「気象制御」という表現に関して、気象コモンズの考え方(伝統的な自然観や社会受容性)に基づく言葉を検討し、「豪雨を鎮める」という表現を提唱しました。

図4 気象制御に関するELSI研究の位置づけ模式図
図4 気象制御に関するELSI研究の位置づけ模式図

3.今後の展開

豪雨制御の程度を変えた複数シナリオをたてて豪雨制御による洪水流制御効果を評価します。「気象コモンズ」の成立要件を明確化します。その考え方に基づきELSI課題に対する社会的・制度的対応シナリオを構築します。