成果概要

ゲリラ豪雨・線状対流系豪雨と共に生きる気象制御2. 制御システムの構築

2022年度までの進捗状況

1.概要

複数の工学的手法を多時点・多段階に実施することによって、効果的に豪雨を抑制するための観測・予測・意思決定が三位一体となった制御システムを構築します。また、多段階的にリアルタイムで介入を行うことで、制御中に仮に想定外のブレが発生したときにでも、軌道修正が可能な制御システムを構築します。さらに、一つの介入手法を大規模に行うというよりも、小規模な複数種類の介入手法を多段階的に実施して、制御効果を高めることを目標としています。具体的には、(I)豪雨現象に関わる時間発展モデルの簡素化(代理モデルの構築)およびアンサンブル予測手法の構築、(II)制御に必要なモニタリング手法の構築、(III)ELSI/RRI 研究のアウトプットに基づいた適切な目的関数の設定、(IV)アルゴリズムの最適化によって、リアルタイムに複数の制御手法を組み合わせた最適解を導出できる意思決定支援システムを構築します。

図1 多時点多段階で判断することを表した模式図
図1 多時点多段階で判断することを表した模式図

2.2022年度までの成果

① 制御デバイス制作に関するロードマップ

本研究開発テーマ2では、テーマ1で開発される各操作手法に関する知見、テーマ3で評価される洪水・水資源さらには人間社会に及ぼす影響に関する評価の知見を取り込みつつ、実時間で操作に関する最適解を導出するシステムを開発することを目標としています。
意思決定に関する非リアルタイム問題として、意思決定問題を豪雨現象が進行する前に最適化しておく問題があげられ、いかに豪雨が発生しやすい場所の近郊に制御デバイスを事前配置できるかが目的意識となることがわかりました。一方で、意思決定に関するリアルタイム問題として、意思決定問題を豪雨現象が進行している最中に随時最適化する問題があげられ、豪雨および前兆現象の観測にはいつどこに制御デバイスを展開するかなどの意思決定問題があげられます。そのため、どの時間、どの空間スケールを狙って制御するかが今後も意思決定問題の課題になるので、図のような制御デバイスのスケールに関するターゲットマップを作成していく方針を定めました。

図2 制御デバイスのスケールに関するターゲットマップ
図2 制御デバイスのスケールに関するターゲットマップ
② 豪雨事例の過去の発生頻度マップとメカニズムの特徴

制御デバイスの事前配置や検証フィールドを決めるにあたって、過去の豪雨発生頻度を調べました。京阪神地方や九州地方をモデルとして検討していく方針を定めました。
豪雨の特徴として、梅雨前線のような前線付随型豪雨は空間スケールが大きく長時間持続する傾向がある一方で、前線から南に離れた場所で発生する孤立局所型豪雨は空間スケールが小さく降雨強度が非常に強い傾向がありました。孤立局所型豪雨は前線付随型豪雨と比較して、大きな大気不安定度や鉛直シア(上空と地表面近くの風速のずれ)を示すことがわかりました。そこで、このような理想的な環境場を崩すような介入手法のアプローチが求められると同時に、大きな外部強制力が存在しない中で自己組織的に発生・発達するため、前線付随型豪雨よりも小規模な介入で豪雨を抑制できる可能性があることが示唆されました。

図3 過去に発生したゲリラ豪雨の発生頻度マップ(左) 線状対流系豪雨の発生頻度マップ(右)
図3 過去に発生したゲリラ豪雨の発生頻度マップ(左)と線状対流系豪雨の発生頻度マップ(右)

3.今後の展開

制御手法の特徴(特に、実施判断のよりどころとする現象、その観測方法、判断から実施までに要する時間、効果を見極める現象、その観測方法)、制御によって生じる影響(豪雨に直接的に関連する影響と社会的な影響)の連関、意思決定問題で対象とする範囲に基づいて、意思決定グラフを作成することを目標とします。