成果概要
ゲリラ豪雨・線状対流系豪雨と共に生きる気象制御[1] 数値計算に基づく工学的手法の開発
2023年度までの進捗状況
1. 概要
豪雨を発生から表現可能な数値気象モデルを開発することによって、数値気象モデル・現地観測・室内実験を併用した気象学的アプローチにより豪雨を抑制するための介入手法について検討します。この検討に基づいて、ゲリラ豪雨と線状対流系豪雨のスケールを意識しながら、フィージブルな複数の工学的手法を開発します。また、ゲリラ豪雨と線状対流系豪雨は発達するまでの時間が短いため豪雨発生の根っこ・発達初期に着目し、その際における発達要因となる現象を操作することで最終的には豪雨の強さや頻度を抑制します。
豪雨発生の根っこ・発達初期には水蒸気が増大し、上昇流を起こし、積乱雲として発達します。その過程で段階的に操作できる物理量として、初めは洋上カーテンを用いて水蒸気を減らし、次に増風機によって熱や気流渦を拡散させます。さらに風車群により風の収束を弱めて、最後にシーディング操作で雲・降水粒子の形成過程を変化させる多段階操作手法を構築していきます。
2. これまでの主な成果
① 風車を用いたゲリラ豪雨の抑制効果
ゲリラ豪雨に吹き込む風を弱めるために風車を抵抗体として用いることで、豪雨の抑制効果を検討しました。
まず、風車の風下側で気流が弱まる現象(ウエイク現象)の理解を深めるための高解像度シミュレーションを行いました。風向の変化や気流の乱れ等がウエイク形成に与える影響について感度実験を行った上で、仮想的な大規模洋上ウィンドファームの計算を実施し、クラスターウエイク現象の視覚化を行いました。
さらに、仮想的に地上付近の風を弱める人工的な操作を行うことで豪雨がどのように変化するのかをシミュレーションしました。2008年度神戸市都賀川のゲリラ豪雨事例を対象とした実験の結果、雨の強さが27%ほど弱まることがわかりました。その理由として、気流渦がもたらしていた上昇流が弱まったこと、また、上昇流の中心部に吹き込んでいた豊富な水蒸気を持つ風の収束が弱まったことが明らかとなりました。
② ドライアイス散布による線状対流系豪雨の抑制効果
雲にドライアイスを散布すること(クラウドシーディング)によって雲形成を制御することに着目しました。仮想的にドライアイス散布による氷晶核形成を増加させる操作を行うことで、令和2年7月豪雨を対象に実験した結果、24時間積算最大降水量を15%抑制することができました。
③ 洋上カーテンを用いた線状対流系豪雨の抑制効果
海からの豊富な水蒸気流入を抑制することで豪雨の抑制効果を検討しました。2017年九州北部豪雨の線状対流系豪雨を対象に1kmサイズの洋上カーテンを想定した数値シミュレーションを行い、3時間雨量が34%抑制されることを示しました。
3. 今後の展開
ゲリラ豪雨と線状対流系豪雨の制御効果を評価するための数値気象モデルのさらなる継続開発を行うだけでなく、感度実験等を行い、いかに小規模な介入で豪雨の発達を大きく抑制できるのかを示すことを目標にします。