成果概要

ナノファイバー共振器QEDによる大規模量子ハードウェア[3] 周波数安定化光源システム

2024年度までの進捗状況

1. 概要

量子コンピュータを社会実装するためには、高い稼働率で長時間安定に運用できるシステムの開発が必要です。ここで、レーザー冷却原子・イオンに基づく全てのハードウェア方式について、その安定な運用に必須なのが周波数安定化レーザー光源システムです。レーザー冷却原子・イオン実験では、原子・イオンの遷移に合わせたさまざまな波長のレーザーが必要です。
これらの光源はそれぞれの波長帯で一定波長に波長(周波数)安定化されており、位相雑音が極めて低く(スペクトル線幅換算で1 Hz以下)、かつ高い信頼性で長時間動き続ける必要があります。我々は、広い波長域で発振し、小型・長寿命な外部共振器型半導体レーザー(ECDL)を光源として選択しました。しかし一般にECDLは、音響振動や温度変化等の外的擾乱に対する静的安定性が低く、制御なしでは大きな位相雑音を持ちます。そこで本課題では、我々の強みであるレーザーの低雑音化制御に加え、ECDLに外乱抑制のための様々な制御手法を取り入れることで小型・堅牢な低雑音光源システムを実現しようとしています。

図1
図1:量子コンピュータ用レーザーに求められる要素

2. これまでの主な成果

我々のグループでは以前から、光格子時計の冷却用および時計遷移観察用レーザーのために、光周波数コムを用いた低雑音光源システムの開発を行ってきており、時計の一部として実戦投入されています。本プロジェクトではこれまでに、二台の高安定共振器に安定化した高安定レーザーを比較し、その位相雑音および周波数安定度を評価しました。その結果、量子コンピュータに必要と想定される位相雑音が得られていることを確認しました。

図2 (上)位相雑音スペクトル密度
図2 (下)生信号のスペクトル
図2:二台の高安定レーザーのビート信号
(上)位相雑音スペクトル密度、(下)生信号のスペクトル

3. 今後の展開

誤り率低減のためには、忠実度、すなわち原子を99 %以上励起・脱励起できる光源の開発が必要です。そのためには、位相雑音だけでなく、パワーについても精密な制御が必要です。そして、社会実装のためには、すべての制御が堅牢に長時間保て、かつ小型でなくてはなりません。
本プロジェクトでは今後、パワーおよびΠパルスの時間幅の精密な制御にも取り組み、実際に原子を高い忠実度で励起・脱励起することに取り組んでいきます。

図3
図3:高安定レーザー、および光コムを用いた、量子コンピュータの社会実装のための周波数安定化光源システムの概念図