研究開発の概要

ナノファイバー共振器QEDによる大規模量子ハードウェア

1.プログラムにおける位置づけ

現在、さまざまな物理系に基づく量子コンピュータハードウェア方式の研究開発が進められていますが、どの方式においても、誤り耐性型汎用量子コンピュータに必要となる莫大な数の量子ビットを一つのユニットに実装することは極めて困難であると考えられています。そのため、小〜中規模の量子ビットを実装したユニットを多数接続してネットワーク化する分散型量子コンピュータ技術の開発が求められています。
共振器量子電気力学(共振器QED)系は原子と光子のハイブリッド量子系であり、量子情報科学分野の黎明期より量子コンピュータの有望な動作原理として理論研究の主要な対象でした。特に、個々の原子と共振器の結合を強く保ったまま共振器内に多数の原子を配置し、それらに個別にアクセスできれば多量子ビットの量子コンピュータとして機能すること、また、複数の共振器QED系を低損失に接続できれば分散型量子コンピュータが可能になることが期待されていました。これらは空間光学共振器に基づく従来の共振器QED系では困難でしたが、ナノファイバー共振器QED技術によって実現が可能になると期待されます。
本プロジェクトでは、独自のナノファイバー共振器QED技術に基づき、大規模化と分散化が可能な新方式の量子コンピュータハードウェアを開発するとともに、社会実装を推進します。それにより、2050年には、圧倒的に大規模な量子ビット数を持つ分散型の誤り耐性汎用量子コンピュータと量子インターネットの実現を目指します(図1)。

図1:分散型誤り耐性汎用量子コンピュータ
図1:分散型誤り耐性汎用量子コンピュータ

2.研究開発の概要及び挑戦的な課題

ナノファイバー共振器QED系(図2)は、直径が光の波長よりも細い「ナノファイバー」を中央部に持つ光ファイバー共振器(ナノファイバー共振器)に閉じ込められた光子と、ナノファイバーの表面近傍に一列に並べられた原子とが量子力学的に相互作用する系であり、世界で唯一の独自技術により開発されました。

図2:ナノファイバー共振器QED系
図2:ナノファイバー共振器QED系

本プロジェクトでは、ナノファイバー共振器QED技術に基づき、大規模化と分散化が可能な新方式の量子コンピュータハードウェアを開発します。具体的には、ナノファイバー共振器QED方式量子コンピュータの原理実証、1ユニットに実装する量子ビット数を拡大する大規模化技術、複数のユニットを接続する分散化技術、ナノファイバー共振器QED方式に適した量子誤り訂正理論、高い安定度と精度での原子の制御を可能にする光源システムを開発するとともに、社会実装を推進します。
既存の方式とは異なる全く新しいナノファイバー共振器QED方式の原理実証と、大規模な分散型量子コンピュータの実現につながる分散化技術の開発が特に挑戦的な課題です。

3.今後の展開

少数量子ビットでの原理実証機(図3)を開発し、ナノファイバー共振器QED方式量子コンピュータハードウェアのPoCを確立します。また、分散化ユニットを開発し、分散化に向けた要素技術を実現します。さらに、大規模化技術、量子誤り訂正理論、光源システムを開発するとともに、社会実装を推進します。

図3:原理実証機
図3:原理実証機