成果概要

超伝導量子回路の集積化技術の開発[1] 誤り耐性量子コンピュータ用量子ビット回路の研究開発

2024年度までの進捗状況

1. 概要

誤り耐性型汎用量子コンピュータ実現に向けたハードウェア上の課題の一つは、誤り訂正符号実装のために多数の物理量子ビットが必要となることで、超伝導量子ビットの場合、典型的なエラーレート(0.1%)ではその数は莫大(108個)になると言われています。
本研究開発テーマでは、この問題を解決するために、エラー率の低減に向けて、量子ビットの寿命、コヒーレンス時間の改善を目指した、高品質量子ビットの製造技術を開発し、誤り耐性型汎用量子コンピュータ実現に必要な量子ビット数を低減することに貢献します。加えて、将来大規模回路化する際の生産性や量子ビット均一性向上の観点で、光学露光や積層プロセスを用いた量子ビット作製技術の開発を行います。
また現在主流の表面符号と比較して、より少数の物理量子ビットで誤り耐性量子計算が可能と期待されているボゾニックコードについても探索的研究を行い、その可能性や有望方式の見極めを行います。

図

2. これまでの主な成果

①超伝導量子ビットコヒーレンスの改善

超伝導量子ビットのエネルギー緩和時間(T1)の短縮要因として、量子ビット電極表面などの各種界面における誘電損失が大きな寄与を持つことが明らかになっています。我々はニオブを電極材料として、上述の各種界面における清浄性を意識した量子ビット製造プロセスの改善に取り組んでいます。量子ビット寿命に大きな影響を与える工程を明らかにすることで、安定的に高寿命な量子ビットを製造するプロセスを確立することを目指しています。これまでに、シリコン基板上にニオブ製のキャパシタとアルミのジョセフソン接合から形成されたトランズモン量子ビットにおいて、最高約170 usの平均T1(Q~5x106)を得ています(下左図)。また、電極構造を変えた複数の量子ビットのT1測定の結果(下右図)、依然として各種界面における誘電損失が主たる短縮要因であることが判っています。

図2
T1測定の典型例 / ロスの表面参与率依存性
②超伝導共振器を用いたボゾニックコードの研究開発

ボゾニックコードと呼ばれる誤り訂正符号は、原理的には無限にある共振器のエネルギー準位の自由度を活かし、量子情報をエラーから守る方式で、従来に比べてハードウェアとして実際に必要な物理量子ビットの数を減らすことが出来ると期待されています。ボゾニック量子ビットの構成要素であるニオブ製の3次元(空洞)共振器のQ値向上を目指して、表面処理を改善した結果、世界最高レベルの109を超えるQ値を再現性良く実現することに成功しました。さらに、メモリ用の3次元共振器、補助量子ビットおよび読出し用の共振器から構成されるボゾニック量子ビットを構築し、最適化パルスを用いてbinomial (1,1) codeの論理状態 | 0L 〉, | 1L 〉の符号化に成功しました。本成果では90%以上の擬忠実度が得られています。

図3
論理状態のウィグナー関数 a) | 0L 〉  b) | 1L

3. 今後の展開

量子ビットの長寿命化については、引き続き製造プロセスの見直しにより、緩和時間T1の改善を行います。同じ電極構造を持つTiN製の量子ビットでは、約300 usのT1が得られており、プロセス面での改善により少なくとも同レベルまでは到達できると考えています。また、電極構造については、電磁界シミュレーションの結果から特にジョセフソン接合部の設計が重要であると考えています。
ボゾニックコードについては、フィードフォワード制御系を構築し、Binomial (1,1) codeにおけるエラー訂正の実証を目指します。