成果概要

超伝導量子回路の集積化技術の開発1. 誤り耐性量子コンピュータ用量子ビット回路の研究開発

2022年度までの進捗状況

1.概要

誤り耐性型汎用量子コンピュータ実現に向けたハードウェア上の課題の一つは、誤り訂正符号実装のために多数の物理量子ビットが必要となることで、超伝導量子ビットの場合、典型的なエラーレート(~0.1%)ではその数は莫大(108個)になると言われています。
本研究開発テーマでは、この問題を解決するために、エラーの原因の理解とそれに基づく高品質な量子ビットの製造技術の開発により、誤り耐性型汎用量子コンピュータ実現に必要な量子ビット数を低減することに貢献します。加えて、現在の製造方法(電子線露光や斜め蒸着法)は、将来大規模回路化する際の生産性や量子ビット均一性の観点で課題があり、光学露光や積層プロセスを用いた量子ビット作製技術の開発を行います。
また現在主流の表面符号と比較して、より少数の物理量子ビットで誤り耐性量子計算が可能と期待されているボゾニックコードについても探索的研究を行い、その可能性や有望方式の見極めを行います。

2.2022年度までの成果

①大面積・高スループットなジョセフソン接合の製造技術の開発

現在の超伝導量子回路の作製は、電子線露光と斜め蒸着を用いて行われるのが一般的です。しかし今後回路の大規模化に伴いウェハの大口径化が進むと、現在の方式では製造スループットや量子ビットの製造ばらつき等が問題となります。これらの問題を解決するために、300㎜ウェハを用いた最先端の半導体プロセスと互換性のある超伝導量子ビット回路作製プロセスを開発します。今回、パターンニングに光学露光(ArF液浸)を用いて量子ビットを作製しました。室温での抵抗値ばらつきを評価し、量子ビットと同じサイズのジョセフソン接合で2%を達成しました。また作製した量子ビットを3D共振器を用いて評価し、約10μsのコヒーレンス時間を得ました。

接合面積と抵抗ばらつき
接合面積と抵抗ばらつき
コヒーレンス時間計測例
コヒーレンス時間計測例

②超伝導共振器を用いたボゾニックコードの研究開発

ボゾニックコードと呼ばれる誤り訂正符号は、原理的には無限にある共振器のエネルギー準位の自由度を活かし、量子情報をエラーから守る方式で、従来に比べてハードウェアとして実際に必要な物理量子ビットの数を減らすことが出来ると期待されています。前年度までに、試作した3次元(空洞)共振器において、先行研究と同等以上の10の8乗を超えるQ値が得られていました。今年度は、ボゾニック量子ビットの設計を最適化し、補助量子ビットの特性の向上を行いました。補助量子ビットの設計や作製方法の改良により、数十マイクロ秒のコヒーレンス時間を再現性良く実現することが可能となり、ボゾニック量子ビットを実装する環境が整いました。第1段階として、記憶キャビティ中の光子数に応じた補助量子ビットのスペクトル分裂を観測することに成功しました。

ボゾニック量子ビット 光子数によるスペクトル分裂
ボゾニック量子ビット 光子数によるスペクトル分裂

3.今後の展開

大面積・高スループットなジョセフソン接合の製造技術開発に関しては、今後斜め蒸着を用いない量子ビットの作製手法の確立を目指します。並行して、量子ビットのばらつきの低減やコヒーレンス時間の改善に取組みます。
ボゾニックコードについては、得られた共振器にバイノミナルコードを実装するとともに、並行して、さらなる高いQ値の実現を目指して、ニオブ製共振器の試作も進めます。