成果概要
超伝導量子回路の集積化技術の開発[1] 誤り耐性量子コンピュータ用量子ビット回路の研究開発
2023年度までの進捗状況
1. 概要
誤り耐性型汎用量子コンピュータ実現に向けたハードウェア上の課題の一つは、誤り訂正符号実装のために多数の物理量子ビットが必要となることで、超伝導量子ビットの場合、典型的なエラーレート(~0.1%)ではその数は莫大(108個)になると言われています。
本研究開発テーマでは、この問題を解決するために、エラー率の低減に向けて、量子ビットの寿命、コヒーレンス時間の改善を目指した、高品質量子ビットの製造技術を開発し、誤り耐性型汎用量子コンピュータ実現に必要な量子ビット数を低減することに貢献します。加えて、将来大規模回路化する際の生産性や量子ビット均一性向上の観点で、光学露光や積層プロセスを用いた量子ビット作製技術の開発を行います。
また現在主流の表面符号と比較して、より少数の物理量子ビットで誤り耐性量子計算が可能と期待されているボゾニックコードについても探索的研究を行い、その可能性や有望方式の見極めを行います。

2. これまでの主な成果
①エピタキシャル接合を用いた量子ビットの研究開発
超伝導量子回路のJosephson接合におけるバリア層には主にアモルファスである酸化アルミニウムが用いられていますが、この酸化膜は電極上の酸化膜と同様にデコヒーレンス源となり得ます。そこで我々は単結晶バリア膜を用いたエピタキシャルJosephson接合の研究開発に取り組んでいます。今年度は、窒化ニオブ/酸化マグネシウム(絶縁体)/窒化ニオブのエピタキシャルJosephson接合作製に取り組みました。窒化ニオブと酸化マグネシウムは共に立方晶が安定であり、格子定数も近いため高品質のエピタキシャルJosephson接合実現が期待できます。上部窒化ニオブ層のX線回折測定を行った結果、酸化マグネシウムを挟んだことによる結晶性の悪化は見られなかったことから、作製したエピタキシャルJosephson接合が高い結晶性を持つことが確認できました。

②超伝導共振器を用いたボゾニックコードの研究開発
ボゾニックコードと呼ばれる誤り訂正符号は、原理的には無限にある共振器のエネルギー準位の自由度を活かし、量子情報をエラーから守る方式で、従来に比べてハードウェアとして実際に必要な物理量子ビットの数を減らすことが出来ると期待されています。ボゾニック量子ビットの構成要素であるニオブ製の3次元(空洞)共振器のQ値向上を目指して、高エネルギー加速器研究機構のノウハウを用いて表面処理を行った結果、世界最高レベルの109に迫るQ値を達成しました。さらに、補助量子ビットの周波数不安定性の原因がレジスト残渣であることを見出し、作製プロセスを改良、周波数の安定化に成功しました。量子状態制御においては、光子数依存任意位相ゲート(SNAP gate)を用いて、共振器中に非古典的な光子数状態の生成に成功しました。

3. 今後の展開
エピタキシャル接合を用いた量子ビットの研究開発に関しては、2Dキャビティ中で動作するトランズモン量子ビットを作製し、2Dキャビティ中でのエネルギー緩和時間T1 = 15 μs以上を目指します。
ボゾニックコードについては、高Q共振器と安定化した補助量子ビットを組み合わせたハードウェアを作製し、Binomial codeを実装します。