研究開発の概要

月面探査/拠点構築のための自己再生型AIロボット

1.プログラムにおける位置づけ

本研究開発プロジェクトでは、2050年代に月面での持続的な有人活動を可能にするためのAIロボット技術の開発を行います。
2020年代後半には人類が再び月に向かう時代が始まろうとしており、2030~2040年代には本プロジェクトで開発するAIロボットシステムにより、有人の長期観測拠点が構築され、2050年代にはより多くの人々が月を訪ねて、生活圏・経済圏を構築する時代となることを目指します。月面という人が活動することが難しい環境において未到探査および拠点構築を行う主要な担い手として、本プロジェクトでは、複数の異種形態のロボット群からなる自己修復/自己成長型AIロボットシステムを提案し、その実現に向けた研究開発を行います。
月面への物資輸送の機会は限られ大きなコストがかかることから、月面に持ち込んだ資材を有効活用し、状況に応じて組み換えを行って形態を変化させ、また必要に応じて月面で得られる資源を用いてパーツの補修や新規追加を行うことを可能とし、様々な形態や状況に対応する適応的なAIシステム組み込むことにより、「変幻自在」なAIロボットシステムを実現することを考えます。
このような革新的なロボット技術の実現により、2040年~2050年代には、ロボットが月面上に拠点を構築し、人が月面上で創造的な活動を行うというムーンショット目標を達成し、さらにその活動は月面に限らず、月以外の天体へと拡がっていくことを目指します。開発された技術は、地球上の自然災害等にも応用できます。

2.研究開発の概要及び挑戦的な課題

本研究開発では、月面において未到探査および拠点構築を行う担い手として、再構成が可能なAIロボットシステムを提案し、その実現に向けた研究開発を行う。月面に持ち込んだ資材を有効活用し、状況に応じてモジュールの組み換えや、月面で得られる資源を用いてパーツの修復を行うことができる自己再生型AIロボットの技術を確立します。それにより、2050年には月面での探査と資源活用が促進され、持続的な有人活動拠点の実現を目指します。
このようなムーンショット目標を達成するために、以下の3つの克服課題に取り組みます。

克服課題1: モジュラー・マルチエージェントなロボットシステム

月面への輸送機会は限られるので、地球から運び込んだロボットシステムは、作業環境や作業目的の更新に対して、適応的に形態を変えて「変幻自在」にタスクを行うことが必要です。また、様々な形態の複数のロボットが協調的に作業を行うことも求められます。
モジュラーロボットおよびマルチエージェントロボットの研究はこれまでも数多く行われてきたが、月面を探査し拠点構築を行うことを目的として、複数のロボットが未知の領域に広く分散して効率的に探査活動を行うこと、あるいは複数の異種ロボットが協調的に資材搬送・組立マニピュレーション作業を行うことは、従来技術の延長線上では対応困難な挑戦的課題である。具体的には、地球とは全く異なる厳しい環境(真空、1/6重力、レゴリスで覆われ岩石が点在する不整地環境等)において適応的にタスクを遂行しうるために、ロボットを再構成型としてシステム全体としてのロバスト性(頑健性)を高め、多数の様々な形態のロボットが分散協調的に動作し、ロボットシステム全体として統合されたミッション達成を可能としなければなりません。

克服課題2:分散型・Plug and Play可能なAI

「変幻自在」なモジュラー・マルチエージェントなロボットシステムに組み込まれ、さまざまな環境やタスクを経験し学習しながら自己成長していくAIシステムの実現は挑戦的な課題です。ロボットの動作を生成し制御するためのAIとして深層強化学習が研究され成果をあげてきていますが、現時点での研究成果は、単一身体のロボットや、個別のタスク学習での実装が中心です。組み換え可能な再構成型ロボット、および異種探査ロボット群に適用するためには、学習成果をPlug and Play (転用、再利用、再構築)可能とする手法の確立が必要で、「階層型強化学習」を発展させることが有力なアプローチです。

克服課題3:自己修復・再生可能なロボットのためのハードウェア製造

月面などの困難環境での活動を持続可能なものとするためには、現地で発生する新たなニーズに応じて、現地で調達される資源・素材を用いてロボットシステムを再生産する地産地消(月の場合、月産月消)の考え方が重要です。
困難環境においてOn-demand型の「変幻自在」なロボットを可能とするためには、現地で調達される土壌素材を用いたロボット構造部材の3Dプリント技術の実用化が不可欠です。土壌の主成分はケイ素を中心としたセラミックス系化合物 (SiO2, Al2O3等) や金属化合物であり、これら素材の材料としての科学的理解、およびその加工法に関する学際的な研究アプローチに基づいて、現在知られているレーザービームあるいは電子ビームによる焼結・溶融工程を発展させ、十分な強度の部材を得るための手法を開発し、自己修復・再生可能なロボットの実現を目指します。

3.今後の展開

上記の3つの課題を克服する要素技術を開発し、各マイルストーンにて、開発成果の技術実証を行っていきます。