研究開発の概要

未知未踏領域における拠点建築のための集団共有知能をもつ進化型ロボット群

1.プログラムにおける位置づけ

本プロジェクトは、人類未到の難環境において小型ロボットたちが協力し、進化成長しながら存続し、群として思考して作業目的を達成するAIロボットの実現を担っています。この研究テーマの達成により、ムーンショット目標3で目指す「2050年までに人が活動することが難しい環境で自律的に判断し、自ら活動し成長するAIロボットの開発」に貢献します。開発された技術は、地球上の自然災害等にも応用できます。

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AIロボット群による縦孔探査と拠点構築
AIロボット群による縦孔探査と拠点構築
小型ロボット群の協調作業と住居拠点展開
小型ロボット群の協調作業と住居拠点展開

2.研究開発の概要及び挑戦的な課題

日本の月探査機「かぐや」によって、月面の縦穴から続く地下空洞の存在が明らかになりました。これにより月地下に火山性の溶岩トンネルの存在が期待されています。地下環境のため外部からの観測が難しく、内部の地形状態の予測が難しいのですが、月表面と比べ太陽光や放射線、隕石から保護された安全で安定した環境のため、長期間の居住に適した場所として国際的な注目を浴びています。

本プロジェクトでは、溶岩トンネル内での人類の居住を実現するため、予測困難で高リスクな未知自然環境におけるロボットによる探査、居住適地発見や拠点構築などの長期活動を可能にする自律分散型かつ自己組織化型のAIロボット技術を実現します。従来の大型高機能ロボットによる高精度計測・制御を使ったリスク回避には限界があり、ロボット開発も困難です。そこで逆のアプローチを取り、多数の小型で低機能なロボットが集団として協調・進化し、リスクを積極的に許容しながら長期活動できる信頼性を確保します。またロボット群に分散実装した集団共有型AI“ネットワーク知能”を核とした階層型群知能が集団として高い知能が発揮することで、従来の大型高性能ロボットに匹敵する能力の実現に挑戦します。

この達成のために、3つの研究開発テーマ、1.進化型ネットワーク知能システム、2.個体進化および群共進化機能の実現、3.ネットワーク知能RTプラットフォームを実施します。最初のテーマでは、ロボットは小型化で相対的に周囲に石や凹凸などが増えて、低い位置から見える範囲が極端に狭くなる小さな世界での活動がより厳しくなり、従来の様な環境分析では戦略的に動けなくなります。そこで、より低機能化した分、台数を増やし、ロボットが環境情報を使わずに確率的に行動した結果から情報を集め、上位知能が情報を統合、分析、学習、判断することで、各ロボットに群を形成させ導き、役割を与え、高い作業能力を作り出します。2つ目のテーマでは、ロボット群間ネットワーク上に分散共有して実装された上位知能搭載、ロボットの搭載機能の柔軟な変更が可能になる枠組みを新しい制御装置を仕組みを設計して実現し、ロボットの進化を可能にします。さらに最後のテーマでは小型化の不利を克服してメリットを活かした移動方法により溶岩トンネル内を移動できる小型ロボット、ロボット群を支援して自分自身が転がり搬送されるコンテナを研究開発し、はじめの2つ研究テーマを統合して実装したロボットシステムを実現します。

既に低機能な小型ロボットとして障害物を飛び越えることが可能なロボットを試作し、群を形成し環境に応じて移動する機能、指定領域内を群が探査する機能、引っ掛った際に跳躍脱出する機能などの成果が得られています。

写真

3.今後の展開

今後、ロボット群の行動の知的戦略化手法の検討、集団共有型AIの仕様設計とアルゴリズムの検討、ロボット機能の柔軟な変更を可能にする方式の設計と進化の実現、ロボット・コンテナの機能と設計開発などを実施することにより、誰からもどこからも支援が得られない未知の環境において、低機能で小型なロボットが、AIにより自己組織化と自律分散化されて集団として高度に知能化し、進化しながら長期間活動していく技術の実現に繋がります。