成果概要

人とAIロボットの創造的共進化によるサイエンス開拓3. AIロボット科学者によるサイエンス探求

2022年度までの進捗状況

1.概要

2050年にAIロボット科学者を社会実装するためには、研究開発の初期段階から科学者との共同研究を実施し、サイエンス探求を具現化しながら研究を進める必要があります。プロジェクトでは、要素技術の応用によって研究が加速すると期待される3つの課題に取り組みます。

(1)「バイオスティミュラント」の開発 (魚住,有澤)

植物を気候変動などの環境変化に強くするため、農薬に変わる薬「バイオスティミュラント」を開発します。無数にある候補からAIが有力な候補化合物を見つけ、その候補化合物を評価する実験をロボットによって精密に行い、植物の変化をAIで観察し、その結果を用いて更なる探索を行います。これらの実験は、細胞の電気的特性を解明する手法として広く応用可能です。

(2)植物再生力の解明 (佐藤)

植物は驚異的な再生力を持つことが知られています。植物の再生力を解明し、更には再生力を発揮させる培地を発見することで、食料の安定供給に繋げることが期待されます。再生力の解明のため、AIが解析する細胞を狙い、分離中の細胞の位置を正確に把握しながらロボットで1細胞ずつ収集して解析します。これは動植物の細胞の遺伝子発現解析などに広く応用できる手法です。

(3)未知の疾患の解明 (武部)

近代医療をもってしても致死率の高い未知の疾患がありますが、ミニ臓器とも呼ばれるオルガノイドを使えば、そのような未知の疾患に対する予防・治療方法を研究できます。オルガノイドに起こるわずかな変化をAIで見つけ、変化が起きた場所の細胞のみをロボットで回収して解析します。また、限られたサンプルで確実に実験を行うため、顕微鏡下での複雑な操作をロボットで自律的に行う方法も研究します。

2.2022年度までの成果

例として、AIが文献や化合物の構造データから有力な候補化合物を見つけ、その候補化合物を作成し、評価するための精密な実験をロボットが行い、微細な構造である気孔の開き具合をAIで観察することで評価する手法を開発しました(図1)。

図1 バイオスティミュラント候補の自動探索
図1 バイオスティミュラント候補の自動探索

また、根の細胞の位置をAIで把握して、細胞分離中の細胞の位置をAIでシミュレーションし、その情報を用いてロボットを制御して細胞を採取する手法を開発しました(図2)。これにより、細胞の位置情報と採取した細胞の解析結果を対応づけることが可能になります。

図2 遺伝子発現解析のための1細胞採取
図2 遺伝子発現解析のための1細胞採取

3.今後の展開

実際のサイエンス探求で扱われる対象物やそのデータを用いてAIロボット要素技術のプロトタイプの応用を開始しました。このように、実際のサイエンス探求の課題を把握したうえで高度なAIロボット技術を研究することが将来の社会実装には不可欠です。
今後も引き続き、AIロボット科学者の身体と頭脳の研究開発の進捗をサイエンス探求への応用例に適用していきます。AIロボットが科学者のみではできなかった実験を行うことによる新たな発見を実証することを目指します。