成果概要

人とAIロボットの創造的共進化によるサイエンス開拓2. AIロボット科学者の頭脳

2022年度までの進捗状況

1.概要

AIロボット科学者が自ら考えて自律的にサイエンス探求するには、「AIロボット科学者の身体が実世界において実験対象物に作用し、その結果の観察に基づいて、AIロボット科学者が次に与える作用を考える」という試行錯誤できる頭脳が必要になります。この試行錯誤ができる頭脳を開発できれば、AIロボット科学者は実世界との相互作用によって、自ら知能を発達させることができると考えます。
プロジェクトでは、試行錯誤できる頭脳の構成要素として、実験データを解釈して新たな仮説を立てる知識探求AI、観察された実験操作の技能データを解釈して、次の実験操作の戦略を立てる技能習得AI、そしてそれらをAIロボット科学者の知能として体系化するための数理基盤を開発します。

2.2022年度までの成果

科学者が実際に行っている実験を対象として、要素技術の開発を行っています。

知識探求AI(竹内、森)

実験データを解釈して知識として習得し、自らの計算能力を考慮しながら、実験の仮説を立てる手法を開発します。ここでは、明示的であり伝達可能な知識(形式知)を扱います。
化合物探索を例として、モダリティの異なる既得知識(化合物の構造式、文献、これまでの実験結果)から、有力な化合物仮説候補を自動で提案するAIを開発しています。また、実験データの高次の解釈に向けて、まずは実験データを自動で解析する手法を開発しました。顕微鏡画像処理によって微細構造を観察し、科学者の目では定量化できない知識を得ることが可能になっています。

技能習得AI(谷口、岡田)

観察された実験操作の技能データを解釈して、技能として習得し、自らの身体能力を考慮しながら、次の実験操作の戦略を立てる手法を開発します。ここでは、明示的な表現や伝達が困難な知識(暗黙知(カン・コツ))を扱います。将来的には、実験に必要な技能を発揮しやすいようにAIロボット科学者の身体構造を再構成し(Self-Reconfiguration)、AIロボットならではの操作戦略を立案することを目指します。これにより、人間の科学者とは違うAIロボット科学者ならではの実験操作を実現します。
要素技術として、ロボットと対象物との相互作用に関する複数の手がかり(画像や音、振動など)を用いて、自らその特徴を見出す(状態空間を形成する)ための手法を開発しており、例としてMultimodal NewtonianVAEに基づくロボット制御を開発しました(図1)。また、ロボットの遠隔操作から熟練操作を学び、少数の学習データを用いてタスクを自律化する手法も開発しています。

図1 Multimodal NewtonianVAE
図1 Multimodal NewtonianVAE

体系化のための数理基盤 (谷村、丸山、松原)

サイエンス探求とは、様々なデータを関連付け、秩序付けて有機的な体系を編み出すことです。知識探求AIと技能習得AIは、仮説や戦略で構成された膨大な潜在空間の中を探索するAIであり、潜在空間の表現に数理基盤を与えることは、試行錯誤から得た知見を知能として体系化することにつながります。
これまでに関係性を記述するための圏論と呼ばれる抽象数学を活用して、汎用的なAIで使用されるニューラルネットワークのアーキテクチャを数学的に厳密に表現する手法を研究しました。仮説や戦略で構成された膨大な潜在空間に法則を取り入れる、また、膨大な潜在空間から法則を発見する手法の開発を進めています。

3.今後の展開

AIロボット科学者の頭脳をAIロボット科学者の身体と融合させることで、サイエンス探求を実現していきます。