成果概要
人とAIロボットの創造的共進化によるサイエンス開拓[2] 僅かな変化も見逃さず狙い撃つ鋭いAIロボット科学者
2024年度までの進捗状況
1. 概要

優れた科学者は、僅かな変化をも見逃さず、また、これから変化が起こりそうな場所を予測して、ピンポイントで操作します。そのような科学探究を可能にする鋭いAIロボット科学者に必要な能力を開発します。
- AIがわずかな兆候や隠れたパターンを見抜き、ターゲットを正確に狙う。
- AIとロボットが連携し、刻々と変化するターゲットを正確にロックオン。
- これまで見落とされていた手がかりを逃さず、未知の現象を解明する。
2. これまでの主な成果
細胞一つ一つには個性があり、その細かな現象を詳細に解析することが重要です。しかし、人間の目では僅かな兆候や隠れたパターンを見抜くことができない場合があります。また、そのような兆候やパターンを見抜いても、人間の手では、その場所をピンポイントで操作することは不可能です。これまでは、科学者が詳しく調べたいと思う特定の細胞を採取して解析することは困難でした。
そこで、AIによって、顕微鏡下の細胞の僅かな変化をも検出し、解析したり予測したりして狙うべき細胞を特定します。そして、狙った細胞のみをロボットによってピンポイントで採取する方法を開発しています。

これまでに、細胞の僅かな変化を解析して狙うAIと狙った細胞のみを採取するロボットを開発してきました。
具体的な科学探究として、植物の根の細胞の採取を例として開発した技術を統合して実証してきました。植物の根の細胞には一つ一つ番地があり、その位置ごとに細胞の機能が異なります。特定の番地にある根の細胞のみを採取して解析し、植物の成長や再生の謎を解明することを目指しています(佐藤PI)。謎を解明できれば、植物の成長や再生を調整できるようになり、将来の食糧問題に備えることができます。
この研究では、まず、髪の毛ほどの細さの根の細胞一つ一つにAIが番地を割り振ります(森PI)。次に酵素で次々と分離されていく細胞をAIで追尾しながらロボットで狙い、1細胞ずつ狙ってピンポイントで採取します(竹内PI、新井PI)。これにより、これまで科学者が調べたくても、人間の目と手では採取することができなかった細胞を世界で初めて採取できました。

同様の技術を動物細胞にも応用しています。血管の病気を解明するための研究(武部PI)を対象として、同じく髪の毛ほどの太さの微小血管の中を流れる全ての細胞をAIで追尾する手法を開発しました(森PI)。
血管内を流れる細胞にも個性があり、同一種類でも挙動が異なります。病気を引き起こす可能性がある細胞を狙って採取するロボットを開発しています(新井PI)。細胞の個性に応じた解析ができれば、いつ何が起こって病気になるかを1細胞レベルで解明することができます。これは、例えば、病気に至る変化を抑制する薬の開発につながります。

3. 今後の展開
植物や動物、人のための薬や栄養を発見するためには、細胞レベルでのメカニズムの解明が不可欠です。人間の科学者を凌駕する観察眼、目と手の動きの連携、正確な位置決めなどのAIロボット科学者ならではの能力を活用して、これまで人間の科学者だけでは実現できなかった実験を初めて可能にすることで、これまで見落とされていた手がかりを逃さず、未知の現象を解明していきます。