成果概要
人とAIロボットの創造的共進化によるサイエンス開拓[2] AIロボット科学者の頭脳
2023年度までの進捗状況
1. 概要
AIロボット科学者が自ら考えて自律的にサイエンス探究を行うには、AIロボット科学者のロボット身体が実世界との相互作用によって、新しい科学知識と技能を自ら獲得しながら、仮説を更新して探究する頭脳が必要になります。
プロジェクトでは、この頭脳の構成要素として、実験データを解釈して自ら新たな仮説を立てる科学AI、ロボットデータを解釈して自ら新たな実験操作の戦略を立てるロボットAI、そしてそれらをAIロボット科学者の頭脳として体系化するための数理基盤を開発します。

2. これまでの主な成果
科学者が実際に行っている動物・植物の実験に応用できる形で要素技術の開発を行っています。
科学AI (竹内、森)
実験データを解釈して知識として習得し、実験の仮説を立てる科学AIを開発しています。ライフサイエンス分野では、実験データの種類が非常に多いにも関わらず、実験サンプル数が少ないため、効率的な探究が必要となります。そこで、化合物探索を例として、様々な種類のデータ(化合物構造式や学術文献のデータベース、過去の実験結果)から、有力な化合物の候補を自ら仮説として提案するAIを開発しました。シミュレーションを併用することにより、実験サンプル数が少なくても有望な仮説を立てることができるようになりました。また、科学者が気づかないような実験対象物のわずかな変化を定量的に把握するAIを開発しました。これにより、数ミクロンの気孔の開き具合、髪の毛の太さほどの根の成長率や微細血管網のわずかな閉塞、細胞の挙動などを瞬時に定量化できました。科学者が気づかないような、わずかな変化から新たな知識を得て、その知識をもとに仮説を更新することにより、AIロボットならではの探究が可能になります。

ロボットAI (谷口、岡田)
AIロボット科学者が極限環境でも人間の介在なしに自ら探究を行うためには、新しい技能を自ら獲得して新たな実験操作の戦略を立てるロボットAIが必要です。特にライフサイエンスでは、タスクが頻繁に変わり、また、自然物である実験対象物のばらつきが大きいため、同じ動作の繰り返しでは対応できません。実験サンプル数も少ないため、操作を大量に学習して技能を学習することが困難です。そこで、少し教えただけで技能を学びとり、自らの身体構造や動作を工夫して、ロボットらしいやり方で臨機応変に操作するための手法を開発しています。
要素技術として、ロボットが自らの身体構造の構成を探索するAIを開発しました。例えば、ロボットが自らの腕を組み立てなおすことで、最適な操作を実現することが可能になります。また、人間による熟練の操作を学び、少数の学習データからタスクを自律化するAIを開発しました。これにより、これまで自律化が困難であった物体の受け渡しのような両手操作を自律化することに成功しました。また、ロボットが物体を移動する場合に、移動先の位置が変わってもロボットが臨機応変に動作を生成するAIも開発しました。これにより、ロボットや物体の位置姿勢を人間が数値でプログラムしなくても、状況が変わっても、複雑な操作をロボットが自ら考えて自律的に実現できます。

体系化のための数理基盤 (谷村、丸山、松原)
サイエンス探究とは、様々なデータを関連付け、秩序付けて有機的な体系を編み出すことです。膨大な可能性が存在する潜在空間の表現に数理基盤を与えることは、試行錯誤から得た知見を知能として体系化することにつながります。これまでに関係性を記述する抽象数学を活用して、汎用的なAIを数学的に厳密に表現する手法を開発してきました。化合物探索の例では、化合物の構造として正しく、かつ多様性のある化合物を仮説として生成する手法を開発しました。また、ロボットの制御においては、物理法則の視点で理にかなった動きを生成する手法を開発しました。
3. 今後の展開
AIロボット科学者の頭脳をAIロボット科学者の身体と融合させることで、サイエンス探求を実現していきます。