成果概要
人とAIロボットの創造的共進化によるサイエンス開拓[1] AIロボット科学者の身体
2023年度までの進捗状況
1. 概要
これまで人間の科学者だけではできなかった理化学実験を実施するため、人間の身体能力を超えた器用さを備え、かつ人間の身体能力を超えて正確・精密な実験操作を行うためのAIロボット科学者の身体を開発します。
具体的には、(1)自律的に探究を行う頭脳を搭載するためのAIロボットプラットフォーム、(2)AIロボットプラットフォームに搭載するためのマイクロロボットツールの研究開発を行います。
2. これまでの主な成果
ライフサイエンス分野の実験では、顕微鏡下で微細かつ複雑な作業を行う必要があり、熟練の科学者でも失敗してしまう場合も多くあります。また、既存のロボット技術は、硬い物体に対する定型タスクの繰り返しは得意としていますが、モデル生物のような微小かつ柔軟なサンプルに対する非定型タスクを苦手とします。
このプロジェクトでは、まず、熟練の科学者の身体能力を超える操作をロボットの遠隔操作や自動制御によって実現し、その後に、その実験をロボットが自ら考えて実行する(自律化する)ロボットAIと統合します。現在は、AIとの統合を想定したプラットフォームやマイクロロボットツールの試作を進めています。
(1)AIロボットプラットフォーム (原田)
これまでにサイエンス探求自律化を研究するためのAIロボットプラットフォームを開発してきました。このAIロボットプラットフォームでは、顕微鏡下に設置された実験対象物に対して、機能の異なる4台のロボットアームが同時に複雑な操作を行うことができます。このロボットにより、様々なモデル生物に対して、高精度かつ複雑な実験操作を行うことができることを実証しました。また、研究を加速するためのデジタルツイン(シミュレーター)も開発しています。ライフサイエンスの分野では、AIを訓練するためだけに大量に実験を行うことはできません。ロボットの自律化のためのAIを効率的に研究する環境としてデジタルツインを提供しています。このロボットの制御技術は、様々なロボットに搭載可能な汎用的な技術です。


(2)マイクロロボットツール (新井)
細胞のような微細かつ柔軟な実験対象物に対して人間の身体能力を超えて正確・精密な実験操作を行うため、様々なマイクロロボットツールを開発しています。例として、様々な実験環境において、ロボットが自らの身体構造を変えて、所望のマニピュレーション性能をオンデマンドで構築できるプラットフォーム:Modular-Robotic Extender(M-REx) を実現しました。その他、植物の根(直径約100 µm)から約10 µmの大きさの細胞を1個ずつ回収するためのマイクロロボットツール、生体組織からAIによって狙った場所の細胞を採取するためのマイクロロボットツールなども開発中です。熟練科学者でも困難な微細操作をロボット化することにより実験データの質の向上にも貢献します。


3. 今後の展開
引き続き、プラットフォーム及びロボットツールの改良とシステム統合を進めます。また、「研究開発項目(2)AIロボット科学者の頭脳」で開発されるAIとの統合を進めることにより、探究の自律化への移行を目指していきます。更に「研究開発項目(3)AIロボット科学者による理化学実験」において科学者と連携し、人間の科学者だけではできなかった理化学実験による新たな発見を行うことでAIロボット科学者の貢献を示します。