成果概要

人とAIロボットの創造的共進化によるサイエンス開拓1. AIロボット科学者の身体

2022年度までの進捗状況

1.概要

これまで人間の科学者だけではできなかった理化学実験を実施するため、人間の身体能力を超えた器用さを備え、かつ人間の身体能力を超えて正確・精密な実験操作を行うためのAIロボット科学者の身体を開発します。
具体的には、(1)自律的に科学探求を行う頭脳を搭載するためのAIロボットプラットフォーム、(2)AIロボットプラットフォームに搭載するためのマイクロロボットツールの研究開発を行います。

2.2022年度までの成果

ライフサイエンス分野の実験では、顕微鏡下で微細かつ複雑な作業を行う必要がありますが、熟練の科学者でも失敗してしまう場合も多くあります。また、既存のロボット技術は、剛体に対する定型タスクは得意としていますが、動植物のサンプルのような微小かつ柔軟なサンプルに対する非定型タスクを苦手とします。
このプロジェクトでは、まず、熟練の科学者の精密さや器用さを超える操作をロボットの遠隔操作や自動制御によって実現し、その後に、その実験を自律化するAIを開発して統合する、というステップで開発を進めています。現在は、AIとの統合を想定したプラットフォームやマイクロロボットツールの試作を進めています。

(1)AIロボットプラットフォーム (原田)

サイエンス探求自律化を研究するためのプラットフォームとして、図1に示すAIロボットプラットフォームを開発しました。このAIロボットプラットフォームは、顕微鏡下に設置された実験対象物の周囲に、機能の異なる4台のロボットアームを配置する構成となっています。ロボットアームの先端には、様々な実験器具を搭載することができ、必要な実験に応じて、必要なAIロボットが集まって実験することを目指しています。これまでに、ロボットアーム同士の衝突やロボットアームと周囲の環境との衝突を自動で回避するための制御を実装し、小動物モデルに対して、遠隔で高精度かつ複雑な実験操作を行うことができることを実証しました。この遠隔操作により、技能獲得AIのための学習データを収集していきます。

図1 AIロボットプラットフォーム
図1 AIロボットプラットフォーム
オープンプラットフォームとして開発(https://aiscienceplatform.github.io/

(2)マイクロロボットツール (新井)

細胞のような微細かつ柔軟な実験対象物に対して、人間の身体能力を超えた精密な実験操作を行うため、様々な機能を持つマイクロロボットツールを開発しています。例えば、細胞の電気応答を計測する実験において、直径約1 mmの細胞にガラスピペット先端を自動で挿入するマイクロロボットツールを開発しており、力センサ(分解能:0.62 µN)を搭載することで刺す時の力を計測しています(図2)。これは、科学者が手先では感じることができないほどの小さな力です。
その他、植物の根(直径約100 µm)から、位置を把握しながら約10 µmの大きさの細胞を1個ずつ回収するためのマイクロロボットツール、小動物から組織を採取するためのマイクロロボットツールなども開発中です。身体能力の限界のため、熟練の科学者でもできないような精密な実験タスクを実現しています。

図2 力センサを搭載したマイクロロボットツール
図2 力センサを搭載したマイクロロボットツール

3.今後の展開

引き続き、AIロボットプラットフォーム及びロボットツールの改良とシステム統合を進めます。また、「研究開発テーマ(2)AIロボット科学者の頭脳」で開発されるAIとの統合を進めることにより、遠隔実験や自動実験から実験の自律化への移行を目指していきます。更に「研究開発テーマ(3)AIロボット科学者による理化学実験」において科学者と連携し、人間の科学者だけではできなかった理化学実験による新たな発見を行うことでAIロボット科学者の貢献を示します。