成果概要

ウイルス-人体相互作用ネットワークの理解と制御[3] 包括的理解のための技術開発と数理解析、AI・情報解析基盤

2023年度までの進捗状況

1. 概要

イメージング技術を高度化し、オミクス技術と組み合わせることで、網羅的かつ経時的な次世代計測技術の開発を進めます。また、イメージング技術が持つ並列性に着目して計測の高度マルチプレクス化により、高いスケーラビリティーの実現を目指します。得られる大規模高次元データの解析手法としては、テンソル解析を用いて網羅的時系列データからダイナミックに時間変化する細胞間相互作用ネットワークを推定します。さらに、細胞間相互作用ネットワークに対して、ネットワークモチーフ解析とネットワークトポロジー解析を適用し、ネットワーク全体の動態を反映するモジュールに分解します。モジュール化された細胞間相互作用ネットワークに基づいて多階層数理モデルを構築し、シミュレーションと感度解析を行います。多階層数理モデルと敵対的生成ネットワーク(GAN)を始めとする生成モデルを組み合わせ、実験データに基づいた架空の時系列データを生成し、免疫応答パタンの層別化に活用します。

2. これまでの主な成果

イメージンググループでは、研究開発項目1と研究開発項目2の研究者と連携し、インフルエンザウイルスとSARS-CoV-2の感染モデルを用いた測定技術の開発とイメージング解析を行いました。具体的には、空間トランスクリプトーム解析(図上)、感染後の肺のまるごと三次元観察(図左下)、電子顕微鏡イメージングによる臨床検体からのウイルス検出(図下中央)、イメージング技術開発開発(図右下)等を実施し、ウイルス感染後の宿主応答を多様な切り口から可視化しました。また、開発中の顕微鏡技術においては、商品化に向けた構想と装置使用案の検討に着手しました。

数理グループでは、ウイルス感染マウスモデルから得られた、時系列オミクスデータに基づくモジュールを抽出しました。また、前年度に開発した深層生成モデルによる細胞間相互作用ネットワークの推定手法を発展させ、bulkRNA-seqデータとscRNA-seqデータを統合することで、より汎用性の高いデータから細胞間相互作用ネットワークを抽出可能な技術を開発しました。その結果、重症化に関与する因子の特定に成功し、これらの知見を研究開発項目1および2の実験的検証にフィードバックし、マウスモデルで検証しました。
また、SARS-CoV-2およびインフルエンザウイルス感染マウスから得られた時系列データを、様々な免疫細胞の影響を考慮した多階層数理モデルで再現しました。
特に、深層生成モデルを活用した細胞共局在ネットワーク解析ツール「DeepCOLOR」を開発し、国際学術誌Cell Systemsに発表しました。

3. 今後の展開

イメージンググループでは、これまでに開発した測定技術を活用し、本プロジェクトで確立したウイルス感染マウスモデルを用いて、研究開発項目1および2の研究者らと協働し、宿主応答ネットワークの可視化を進めるとともに、測定技術を改良して得られたデータをもとに、ウイルス感染後の宿主応答を包括的に解析します。
数理グループでは、開発した解析技術を用いて宿主応答ネットワークの抽出をさらに推進し、未病状態の予測を可能にする標的候補分子の同定を進めます。さらに、ヒト臨床データを取得して解析を進め、動物モデルで得られたデータとのフィードバック解析を実施し、本プロジェクトで得られた研究成果のヒトへの実装に向けた研究を展開します。