成果概要

ウイルス-人体相互作用ネットワークの理解と制御[2] 宿主応答ネットワークの解析

2023年度までの進捗状況

1. 概要

各種ウイルスの感染マウスモデルを用いて、急性期および慢性期のエフェクターおよび記憶T細胞、マクロファージ、樹状細胞、自然リンパ球等の自然免疫細胞の遺伝子発現を単一細胞レベルで解析し、分子イメージングの研究者と連携して遺伝子発現様式を可視化します。本研究により、ウイルス感染によるに免疫細胞の応答パタンの分類に必須な情報を取得し、数理研究者と連携して免疫応答パタンの数理モデルを作成し、データベースを構築します。また、各ウイルス感染に対する免疫細胞の鍵となる分子とネットワークを同定し、リンパ節や骨髄等に存在する免疫支持細胞、および気道や血管に存在する細胞の遺伝子発現パタンとウイルス感染応答における役割を解析します。さらに、ウイルス感染応答における腸管、気道等のマイクロバイオームの変動とその役割について検討します。数理およびイメージング研究者との連携により、免疫細胞、免疫支持細胞およびマイクロバイオームのネットワークについて検討し、各群間のネットワークを制御する分子機序を解明します。マイクロバイオームに関しては、ウイルス感染に対して免疫細胞と免疫支持細胞の応答のキーとなる細菌群の同定を目指します。

2. これまでの主な成果

インフルエンザウイルスとSARS-CoV-2の感染モデルについて、特に免疫細胞に注目して網羅的遺伝子発現解析を実施し、研究開発項目3の研究者らとの協働により、重症化に関与する分子を同定しました。さらに、同定された分子に対する阻害剤をウイルス感染マウスに投与し、早期診断や治療介入を可能とするバイオマーカーおよび治療標的分子としての妥当性を検討しました。また、研究成果のヒトへの実装を視野に、肥満・老化・アレルギーをはじめとするヒト病態に着目し、ウイルス感染との相関について解析しました。さらに、千葉大学コロナワクチンセンター教職員コホートをはじめとする臨床データを取得し、未病状態の維持に関わる免疫学的特徴を解析しました。

3. 今後の展開

本プロジェクトで作出したマウス感染モデルから抽出された宿主応答パタンから、重篤な病態変化が生じる前の超早期の診断と治療介入を可能にするバイオマーカーと治療標的を同定し、ヒトへの実装にむけて科学的な検証を進めます。また、得られた宿主応答パタンに基づいて新たにウイルスを分類し、感染後の生体応答パタンに応じた予防・治療法の開発を進め、パンデミックを未然に防ぐことのできる社会の実現を目指します。