成果概要

ウイルス-人体相互作用ネットワークの理解と制御2. 宿主応答ネットワークの解析

2021年度までの進捗状況

1.概要

各種ウイルスの感染動物モデルを用いて、急性期および慢性期のエフェクターおよび記憶T細胞、マクロファージ、樹状細胞、自然リンパ球等の自然免疫細胞の遺伝子発現を単一細胞レベルで解析し、分子イメージングの研究者と連携して遺伝子発現様式を可視化します。本研究により、ウイルス感染によるに免疫細胞の応答パタンの分類に必須な情報を取得し、数理研究者と連携して免疫応答パタンの数理モデルを作成し、データベースを構築します。また、各ウイルス感染に対する免疫細胞の鍵となる分子とネットワークを同定し、リンパ節や骨髄等に存在する免疫支持細胞、および気道や血管に存在する細胞の遺伝子発現パタンとウイルス感染応答における役割を解析します。さらに、ウイルス感染応答における腸管、気道等のマイクロバイオームの変動とその役割について検討します。数理およびイメージング研究者との連携により、免疫細胞、免疫支持細胞およびマイクロバイオームのネットワークについて検討し、各群間のネットワークを制御する分子機序を解明します。マイクロバイオームに関しては、ウイルス感染に対して免疫細胞と免疫支持細胞の応答のキーとなる細菌群の同定を目指します。

2.2021年度までの成果

ウイルス感染症の中で最もパンデミックを引き起こす可能性の高いのは、IFVやコロナウイルスなどの呼吸器系のウイルスです。本プロジェクトでは、ウイルスモデルが既に確立されているIFVの感染モデルを用いた解析を進め、その解析手法や実績を、新たに確立したSARS-CoV-2の感染モデルに横展開することで効率よく研究を進めました。IFVモデル解析では、樹状細胞、自然リンパ球、マクロファージを中心に、一細胞遺伝子発現解析で遺伝子発現パタンを抽出、数理科学の研究者と連携して新たなモデルを確立しウイルス感染によって発現が誘導される細胞群、遺伝子群を見出しました。これらの遺伝子群から、感染超早期の診断を可能とする細胞群、およびターゲット分子候補を同定しました。この解析手法、解析モデルをSARS-CoV-2感染モデルに横展開し、IFVとSARS-CoV-2の感染に共通するウイルス感染後の未病状態を定義する特徴的な動態を示す細胞群や分子群を見出し、宿主応答に基づいたウイルス分類を行うべく研究を展開しています。
特に、SARS-CoV-2感染モデルについては、ヒト臨床データの解析を動物モデルと並行して実施できる体制を整備、ヒトへの実装を視野に入れた研究開発を進めています。

3.今後の展開

研究開発項目1で作出されるウイルス感染のin vivo, in vitroモデルについて、研究開発項目3の研究者と協働してウイルス感染の宿主応答を網羅的に解析し、宿主応答パタンの抽出を進めます。新たな測定技術と数理解析技術の開発により、自然免疫細胞、獲得免疫細胞、免疫支持細胞、そして、体内細菌叢を含む宿主応答の網羅的で包括的な解析により、超早期の介入を可能にするターゲットを同定し、診断治療法の開発を目指します。また、ヒト臨床データの取得により、ウイルス感染モデルデータとヒト病態データとの関連を解析、ヒトへの実装を目指した研究を展開します。