成果概要

臓器連関の包括的理解に基づく認知症関連疾患の克服に向けて3. AI・数理研究による臓器間ネットワークの解明

2022年度までの進捗状況

1.概要

AI・数理研究を通じて、データ連携システム・機械学習法の開発、各研究グループとの連携によるデータ駆動的な臓器間ネットワークの数理モデル構築を行います。そして数理モデルとヒトデータの統合を通じて、数理学的手法による臓器間ネットワークの解明を目指します。
データ連携システムでは、生物から得られる限りあるデータを有効に活用するため、AI・機械学習を用いて、例えばデータのノイズを除去したり欠損値を補ったりすることを可能とします。データ駆動的な数理モデル構築では、生物から得られたデータを用いて病態を推定することや、データから各臓器の状態を予測可能にするような数理モデルの構築を目指します。そして数理モデルとヒトデータとの統合では、未病状態で非侵襲的かつ安価で計測できるデータから多臓器の状態、そして認知症発症に至る過程を推定する機械学習を開発します。

2.2022年度までの成果

①データからダイナミクスを学習する深層学習技術DIOS(Deep Input-Output Stable dynamics)の開発

京都大学の小島らは、生体の動きの中で重要な性質である入出力の安定性を保ちながら、データからその動きを学ぶための新しい深層学習技術を開発しました。この研究では、予期しない刺激やノイズに対して頑健性を持つ、入出力の安定したシステムに焦点を当てました。そして、入出力の安定性を保証するためのニューラルネットワークのシステムを学習する方法を実現しました。

②非時系列データを用いた疑似時間再構成法の開発

疑似時間再構成法は、個々の細胞から得られたデータを使用して、それぞれの細胞の成長や分化の過程を推定する手法です。通常、この手法は一細胞RNA-seqデータに適用されますが、北海道大学の中岡らの研究チームは、病気の発症に関する情報を抽出するために、腸内細菌データにも適用可能な手法を開発しました。
最近では、パーキンソン病関連認知症を含む中枢神経疾患と腸内細菌の関連性(腸脳連関)が注目されています。このため将来的に、今回開発した手法を使用して、未病の状態での発症に関連する腸内細菌データを解析し、疾患の経時的な進行に合わせた腸内細菌の変化を特定し、重要な細菌の種類を特定する研究を進める予定です。
また、このような発症前の状態を予測するための要因を同定するために、動的ネットワークバイオマーカー(DNB)理論という数理解析手法を細菌叢データに適用しました。その結果、注意欠如・多動症(ADHD)や自閉症スペクトラム(ASD)の研究において、腸内細菌叢の組成が変化する前の時点で関連因子を検出することに成功しました。今後、DNBを用いた解析を腸内細菌叢データだけでなく、認知症に関連するデータにも広く適用する研究を進める予定です。

3.今後の展開

今後は、動物モデルおよび未病ヒトコホートから取得した複数のパラメータについて、データ駆動的な数理モデル構築を行い、臓器間ネットワークの変調を解明します。さらにこれらを実施することにより、脳-臓器連関に基づく認知症の予測・予防方法達成に繋がります。