成果概要

臓器連関の包括的理解に基づく認知症関連疾患の克服に向けて2. ネットワークの変容を超早期に発見可能とする新規イメージング・計測・操作技術の開発・応用

2022年度までの進捗状況

1.概要

疾患の超早期の病態を研究するためには、臓器間ネットワークの変容を超早期から高精度にとらえ、解析を可能とする、従来にないレベルの新たな技術開発が重要です。
本研究開発テーマでは、まず画像解析技術の観点から、疾患モデル動物を用い、超早期からの神経ネットワークの変化を高い空間解像度で検出する観察技術を開発し、ミクロ・ナノスケールの観点から構造変化を捉える基盤技術を確立します。また、高分解能電子顕微鏡解析や、細胞レベルにおけるクライオ電子線トモグラフィー解析をすすめ、さらにクライオ電子顕微鏡による解析等により、疾患を発症するしくみを原子レベルの構造変化から解明していきます。これらの技術により得られる知見を多臓器のデータと合わせることで、臓器間ネットワークの理解を促進し、神経変性疾患研究を推進します。
一方新規分子・バイオマーカー探索の観点からは、神経細胞間を連絡するシナプス構造の変容解析や、全身臓器とのネットワークの解析、臓器間の連絡に関与していると考えられている細胞外小胞が合成され放出されるメカニズムと疾患に関わる変化の解析、生理学的及び行動学的解析を通じて臓器間ネットワークの変容を早期に検出可能なバイオマーカーを幅広く探索します。
これらにより、臓器間ネットワークそのものを計測・解析して超早期疾患マーカーを見出し、それらに介入する技術の開発を進めていきます。

2.2022年度までの成果

イメージング技術の開発・応用に関する代表的な成果として、神戸大学の仁田らによる、クライオ電子顕微鏡技術を用いたものを2点紹介します。

①細胞内の連続的な変化をミクロで捉えるタイムラプスクライオ顕微鏡解析

タイムラプスクライオ顕微鏡解析を用いて、細胞内の連続的な変化を捉える新しい手法を開発しました。細胞内ではチューブリンという蛋白が重なり合って微小管と呼ばれる構造を作りますが、この過程を連続的に捉えることに成功しました(ELife, 2022)。この手法を、認知症の原因とされるアミロイドβやタウ、アルファシヌクレインなどのタンパク質に応用することで、これらのタンパク質がどのように集まり、凝集体を形成するのかを調べることができるようになります。つまり、細胞内で起こる重要なプロセスをビデオのように観察することで、認知症のメカニズムを解明する手がかりを見つけることが期待できます。

②臓器から分子までスケールを超えた構造解析を行うクロススケールクライオ電子顕微鏡解析

臓器から組織、細胞、分子といった様々なスケールでの構造解析を行う新しい手法として、クロススケールクライオ電子顕微鏡解析を開発しました(Sci.Adv,2023)。まず心臓を対象にして、臓器全体から始まり組織、細胞、そして分子までのスケールでの構造を詳しく解析することができました。今後、この手法を中枢神経に応用することで、未病状態での構造変化を観察する可能性にも取り組んでいきます。つまり、病気が発症する前の段階で、中枢神経の構造に生じる変化を捉えることを狙います。

3.今後の展開

今後は、引き続き臓器間ネットワークの変容を早期に観測可能な新規イメージング技術の開発を進めます。また、臓器間ネットワークの変容を早期に検出可能な新規分子・バイオマーカーの探索を並行して進めます。それらの技術を確立した上で、疾患グループやAI・数理グループとの協働による数理解析によって、疾患モデル動物の臓器間ネットワーク変調メカニズムを解明し、ヒトにおけるバイオマーカー候補を検証します。これを実施することによりネットワークの変容に着目した超早期診断・予防を可能とするための基盤技術を確立します。