成果概要

臓器連関の包括的理解に基づく認知症関連疾患の克服に向けて[1~4] アルツハイマー病・血管性認知症・パーキンソン病関連認知症における脳-臓器連関の研究(2)

2024年度までの進捗状況

1. 概要

認知症の原因となる三大疾患は、アルツハイマー病、血管性認知症、レビー小体型認知症あるいはパーキンソン病関連認知症です。これらの認知症関連疾患について、最先端のモデルマウスとヒトコホート(J-PPMIコホート、ながはまコホートなど)を用い、数理解析などを駆使して特に未病期における臓器間のつながり(臓器連関)に注目して解析を行います。これにより発症のリスク予見法の開発と介入による発症予防を目指した研究を行います。
このうち、パーキンソン病関連認知症の研究で用いるモデルマウスは、原因タンパクが蓄積し前駆状態の症状を呈するが、運動症状は呈さず発症はしない、いわゆる ‘前駆期’のモデルです。ヒトコホートにおいても、この前駆状態にあるレム睡眠行動障害を呈する患者さんを追跡するコホートを運営しており、発症前の段階における発症予測マーカーや発症予防につながる治療ターゲットの同定に重点を置いて、基礎技術グループ・数理グループとの協働で研究を推進しています。

  • アルツハイマーグループ統括 山中宏二(名古屋大学)
  • 血管性認知症グループ統括 望月直樹(国立循環器病センター)
  • パーキンソン病グループ統括 服部信孝(順天堂大学)
  • 基礎技術グループ統括 大塚稔久(山梨大学)

2. これまでの主な成果

パーキンソン病前駆期コホートの運営、活用

パーキンソン病前駆期の症状としてレム睡眠行動障害(RBD)が注目されています。RBDを呈する方はドパミン神経細胞の脱落とともにDAT-SPECTの取り込み低下が進行し、5年で約30%、10年で約60%の方がパーキンソン病やレビー小体型認知症を中心とする神経変性疾患を発症するといわれており、これらの方々を追跡することによって、疾患の発症に至る過程や発症を予測するバイオマーカー、治療ターゲットの同定が可能となります。
国立精神・神経医療研究センター病院の高橋祐二・特命副院長らのグループは、100名以上のRBDの方を追跡する前向きコホートを運営しており、初期からの自律神経障害の存在など、様々な特徴を明らかにしてきました(J-PPMIコホート)。これらを動物モデルで得られた知見と相補的に組みあわせることにより、前駆期のパーキンソン病関連疾患の全容を明らかにし、発症前の段階における発症予測マーカーや発症予防につながる治療ターゲットを同定することを目標としています。

RBD患者を追跡するJ-PPMIコホート研究
RBD患者を追跡するJ-PPMIコホート研究
血液を用いたパーキンソン病(PD)の診断の試み

PD患者さんの体液(髄液など)には、脳内で蓄積する病的に凝集したα-シヌクレイン(αSyn)が漏れ出たものが検出されることが報告されてきました。しかし、髄液の採取には侵襲性があり、簡易なバイオマーカーとは言えない状況でした。
順天堂大学の服部信孝・教授、奥住文美・准教授、波田野琢・准教授らのグループは、PD等の患者血清から、正常型αSynタンパク質を凝集させる種となる、病的な構造をもつ凝集体「αSynシード」を検出することに成功しました。さらに、血清に存在するαSynシードは疾患ごとに構造や性質が異なり、疾患の鑑別に有用であることを世界で初めて明らかにしました。これは、PDの病態解明や新規治療法開発の端緒となる発見です(Nat Med, 2023)。

患者血清を用いた高い感度・特異度を持つ診断法の開発
患者血清を用いた高い感度・特異度を持つ診断法の開発
PD病因蛋白αSynに対する免疫応答の解析

パーキンソン病(PD)患者では、脳内に蓄積する病的なαシヌクレイン(αSyn)凝集体の特徴として、129番目のセリン残基のリン酸化が知られています。順天堂大学の三宅幸子教授および西井慧美助教らは、このリン酸化部位を含む合成ペプチドに対して、CD4陽性T細胞の一種であるTh17細胞の応答がPD患者において疾患の重症度と相関して増加すること、これにはαSyn凝集体に曝露された抗原提示細胞におけるTLR4-XBP1s経路が関与することを示しました。これらの結果は、αSyn特異的Th17応答がPDの病理進行に重要な役割を果たしていること、そしてその抑制が新たな治療戦略となる可能性を示しています(J Neuroinflammation 2025)。

3. 今後の展開

今後は、様々な種類のデータを独自の疾患モデルや前駆期コホートから収集し、データ駆動的な臓器間ネットワークの数理モデル解析と組みあわせて、超早期の診断に資するバイオマーカー候補を抽出します。これにより、脳-臓器連関に基づくPD関連認知症の予測・予防を目指します。