成果概要

臓器連関の包括的理解に基づく認知症関連疾患の克服に向けて[5] AI・数理研究による臓器間ネットワークの解明

2023年度までの進捗状況

1. 概要

AI・数理研究を通じて、異種データ統合機械学習システムの開発、各研究グループとの連携によるデータ駆動的な臓器間ネットワークの数理モデル構築を行います。そして数理モデルとヒトデータの統合を通じて、数理学的手法による臓器間ネットワークの解明を目指します。
異種データ統合システムでは、生物から得られる限りあるデータを有効に活用するため、AI・機械学習を用いて、例えばデータのノイズを除去したり欠損値を補ったりすることを可能とします。データ駆動的な数理モデル構築では、生物から得られたデータを用いて病態を推定することや、データから各臓器の状態を予測可能にするような数理モデルの構築を目指します。そして数理モデルとヒトデータとの統合では、未病状態で非侵襲的かつ安価で計測できるデータから多臓器の状態、そして認知症発症に至る過程を推定する機械学習技術を開発します。

(統括:広島大学・本田直樹教授)
(統括:広島大学・本田直樹教授)

2. これまでの主な成果

アルツハイマー病の予兆候補の発見に役立つ機械学習モデル開発

アルツハイマー病は、脳の神経細胞が徐々に変性する進行性の疾患です。主に高齢者に見られ、記憶力の低下や認知機能の障害が特徴です。原因は完全には解明されていませんが、アルツハイマー病患者の脳では、神経細胞の変性に先立ってアミロイドβと呼ばれるタンパク質の蓄積が生じることが知られています。脳内のアミロイドβの蓄積を判定する方法は、現状では高額なコストや侵襲性などの問題を抱えています。そのため、脳内のアミロイドβの蓄積量を予測できる、簡便で非侵襲に計測可能なバイオマーカー(血液、尿、医療画像などから測定可能な、病気の状態を表す指標)があれば、アルツハイマー病の早期発症予測に有用なはずです。
通常、機械学習を用いてアミロイドβの蓄積量をバイオマーカーから予測しようとすると、ペアデータ(バイオマーカーとアミロイドβ蓄積量を同じサンプルで観測したデータ)が必要になります。しかし、このようなペアデータの取得は高コストで労力もかかるため、バイオマーカー探索では避けられてきました。そこで、本田直樹 広島大学教授(兼任:生命創成探究センター客員教授)、矢田祐一郎 広島大学特任助教からなる研究グループは、ペアデータが限られている場合でも、アミロイドβ蓄積量の定量的予測を可能にする機械学習モデルを開発しました。今後、この技術を応用することで、アミロイドβ蓄積量の予測性に基づいた新たなアルツハイマー病バイオマーカーが開発されることが期待されます。
本研究成果は、2023年11月23日に、国際学術誌「npj Systems Biology and Applications」に掲載されました。

公開マウス実験データ/アミロイドβ量の予測結果

行動特徴とアミロイドβ量の両者が測定された公開データを用いて、非侵襲的な3種類の行動解析結果から脳内アミロイドβ量が推定できることを証明しました。

除外する行動特徴/使用する行動特徴の種類

アミロイドβ量の予測には1つの行動解析だけでなく、複数の行動解析結果を用いることが重要だと示唆されました。

3. 今後の展開

上記は数理解析あるいは数理モデルの有用性を示すごく一部の例です。ムーンショット目標2では様々なモダリティ、例えば多数の臓器の単一細胞解析や認知症ヒトコホートの画像データなどビックデータが蓄積されつつあります。数理の力なくしてその解析は困難であり、さらには新しい理論やモデルの構築も必要であり、そのためには数理と生物の協働が不可欠です。