成果概要

臓器連関の包括的理解に基づく認知症関連疾患の克服に向けて1. アルツハイマー病・血管性認知症・混合型認知症・パーキンソン病関連認知症における脳-臓器連関の研究

2022年度までの進捗状況

1.概要

認知症の原因となる三大疾患は、アルツハイマー病、血管性認知症(および混合型認知症)、パーキンソン病(およびレビー小体型認知症)です。研究開発テーマ1~3では、これらの認知症について、最先端のモデルマウスとヒトコホートを用い、数理解析により臓器間のつながり(臓器連関)を解明することでリスク予見法の開発と介入による発症予防を目指した研究を行います。
本研究で用いるモデルマウスは、原因タンパクが蓄積し(いわゆる‘未病’状態)、その後に症状を来すモデルで、各種病態の発症前段階の解析を可能とします。ヒトコホートも発症前からの集団を対象とした研究を推進しています。

2.2022年度までの成果

①認知症未病大規模多施設コホートの運営、活用

画像と血液のバイオマーカー開発を相互促進的に推進する多施設連携体制として、現在18施設が参画するMABB(multicenter alliance for brain biomarkers)未病コホートがあります。各施設における他の臨床研究からもデータ・サンプルの二次利用が可能であることがMABB研究の特長で、これによりバイオマーカーの検証を加速できます。

②アルツハイマー病バイオマーカーの産生機構を解明

アルツハイマー病の発症過程で、原因タンパク質のアミロイド β(Aβ)は発症よりかなり前から脳内に蓄積します。その診断マーカーであるAPP669-711を用いてヒトの血液数滴から脳内Aβの蓄積量が推定可能ですが、その産生と血液への流出機序は不明でした。東京大学の富田教授らはタンパク質切断酵素ADAMTS4が APP669-711 の産生に関与することを世界で初めて明らかにしました(Mol Psychiatry 2022)。これは脳と末梢の連関に基づいた正確な脳内病理の推定に繋がる大きな発見です。

③脳に流入・流出する血管・脈管構造の高解像度イメージングと機能イメージング

脳に流入・流出する血管・脈管構造のイメージングとして、リンパ管内皮細胞を可視化したマウスの透明化脳、リンパ管内静脈弁を可視化したマウス、ヒトの3次元イメージングを行っています。

④パーキンソン病原因物質の脳内可視化・血液での検出

量子科学技術研究開発機構の樋口部長らは疾患原因タンパク質「αシヌクレイン」病変のPETを用いた明瞭な画像化に、順天堂大学の服部教授らは血液を用いた病的な構造をもつαシヌクレイン凝集体の検出に世界に先駆けて成功し、正確な診断技術の確立に大きく貢献する成果です。

3.今後の展開

今後は、様々な種類のデータを独自の疾患モデルや認知症「未病」コホートから収集します。さらにデータ駆動的な臓器間ネットワークの数理モデル解析を通じて、早期診断に資するバイオマーカー候補を抽出します。これにより、脳-臓器連関に基づく認知症の予測・予防を目指します。