成果概要

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生体内ネットワークの理解による難治性がん克服に向けた挑戦[1] 患者生体データの統合解析に基づく最適医療(My Medicine)の要素技術の開発

2025年度までの進捗状況

1. 概要

難治性がんの自然史を理解するためには、正常組織を含め、超早期、早期、進行段階を含めた大規模な生体試料および臨床データを統一的に集積することが必要です。特に、超早期段階の膵がん試料など、微量の検体から様々な生体データを取得する技術やデータを有効に活用することが必要です。

本テーマでは、難治性がんの予測・予防に向けて、その進行段階ごとの臨床検体(がん組織・近傍の正常組織)、レーザーマイクロダイセクションサンプル、臨床データ(血液生化学データ・CT/MRI画像など)、血液・体液・糞便などを難治性がん患者から取得して集積・共有することが進んでいます。
平行して、患者組織試料から樹立したオルガノイドの樹立と網羅的な解析への応用が進んでいます。患者オルガノイドは、培養により様々な生物学的研究に供することが可能であり、発症メカニズムの統一的な理解に大きく寄与する技術です。
さらに、患者組織試料からゲノムをはじめとする多層的な生体データを取得し、最適医療を実現するための、データ解析を進めています。

イラスト

2. これまでの主な成果

患者生体試料バンクの構築

慶應義塾大学、京都大学、神戸大学の三機関において共通の取組に関する倫理委員会の承認のもと、患者生体試料バンクを継続的に拡大させています。特に、正常膵臓や超早期、早期病変由来のオルガノイドリソースを拡充させ、その利活用を進めています。
また、生体試料を用いたシングルセルレベルのゲノム解析や遺伝子発現解析を進め、がん超初期に重要な候補因子と経路を同定しました[1-3]。

図1
[1] ドライバー変異による食道がん予測モデル Yokoyama et al., Sci Transl Med. 2025.
図2
[2] 肺がんのIGF-1依存性獲得機構
Fukushima et al., Nat Cancer. 2025.
図3
[3] 肺がんのEGFR-TKI耐性機構
Shinozaki et al., Nat Commun. 2025.
オルガノイド培養プラットフォームの構築

がん患者由来オルガノイドやヒト多能性幹細胞を利用し、従来のオルガノイド培養技術にない、微小環境ネットワークを擬似化するオルガノイド培養系として、肝臓内の多帯域肝組織を再現したオルガノイド、間質系に臓器特異的な血管ネットワーク、自然免疫系細胞ネットワークなどを補完したオルガノイドなどの培養法を開発しました。これらを利用することにより、今後の創薬・疾患研究、個人に最適な薬剤選択への展開が期待できます[4-7]。

図4
[4] オルガノイド培養手法 実験医学別冊 2025年4月(羊土社)課題推進者 佐藤、武部/編
図5
[5] PBRM1欠損による低分化型膵がんの発生
Kawai et al., J Clin Invest 2026
図6
[6] 代謝機能を模する肝臓オルガノイド
Igarashi et al., Nature 2025.
図7
[7] 類洞をもつ肝臓オルガノイド
Saiki et al., Nat Biomed Eng 2025.
多階層統合解析との融合による難治性がんの早期発見法の開発

得られた大規模な臨床検体・オルガノイドを活用し、全ゲノムデータ解析、RNA解析、miRNA解析、脂質代謝物・脂質メディエーター・エクソソームの解析基盤と融合させることにより、難治性がんの早期段階の特徴を明らかにし、血中miRNAで膵がんを早期発見する技術、エクソソームの糖鎖で膵がんの予後を予測する技術を開発しました[8,9]。

図
[8] がんの予後を予測する新指標 TMB
Saito et al., Nat. Med. 2026.
図
[9] 細胞外小胞による膵がん診断法
Kawakami et al., Cancers 2026.

3. 今後の展開

正常組織から、がんの超早期段階、早期段階、進行段階が有機的につながり、患者オルガノイドの樹立・培養系とデータ解析が進んでいます。その進行に合わせ、早期がん検出法の社会実装を進めていきます。