成果概要
生体内ネットワークの理解による難治性がん克服に向けた挑戦[1] 最適医療(My Medicine)の実現に向けた患者生体試料・データの集積技術の開発
2024年度までの進捗状況
1. 概要
難治性がんの多くは進行がんとして見つかるので、患者に由来する臨床データ及び生体データが限られ、発症要因の解明の大きな障害となっています。また、微量の検体から様々な生体データを取得する技術やデータを集積して共同利用する仕組みが未成熟です。
本項目では、難治性がんの予測・予防に向けて、正常組織、超早期段階、早期段階、浸潤や転移を伴う進行段階のがんの臨床検体(がん組織・近傍の正常組織)、臨床データ(血液生化学データ・画像など)、血液・体液・糞便などを難治性がん患者から取得して集積することが進んでいます。

平行して、患者組織試料からのオルガノイドの樹立と集積が進んでいます。患者オルガノイドは、患者試料では不可能な様々な実験に供することが可能であり、発症プロセスの理解に大きな可能性を開く革新的な技術です。

さらに、患者組織試料からゲノムを含む様々な生体データを取得し、データベースを構築し、解析を進めています。

2. これまでの主な成果
患者生体試料バンクの構築
慶應義塾大学、京都大学、神戸大学の三機関において共通の取組に関する倫理委員会の承認を得ました。各施設において、内視鏡や外科手術などの様々な手法で得られる、余剰の残存試料を集積しています。さらに、オルガノイドを樹立しています。これらについてゲノム・オミックス解析を進め、膵がんの分子および表現型進化と乳がん発症の歴史を解明しました。



オルガノイド培養プラットフォームの構築
標準化した手法を用いて未病由来オルガノイドが樹立可能であることを確認し、検体数を集積しました。オルガノイドを用いた解析から、膵がんが悪性転化するメカニズムを解明し、EZH2阻害剤が膵がん治療薬として有望であることを見出しました。さらに、新たなオルガノイド培養技術の開発を進め、高い増殖能と各種の代謝・分泌能をあわせ持つ肝細胞オルガノイドの効率的な培養法を開発しました。創薬・疾患研究、再生医療への展開が期待できます。



多階層統合解析共有データベースの構築
臨床検体・オルガノイドの全ゲノムデータ解析、RNA解析、miRNA解析、脂質代謝物・脂質メディエーター・エクソソームのプロファイルを取得する基盤の整備を進めています。血中miRNAで膵がんを早期発見する技術、エクソソームの糖鎖で膵がんの予後を予測する技術を開発しました。


3. 今後の展開
正常組織および超早期段階、早期段階、進行段階のがんの検体の採取が進み、患者オルガノイドの樹立とデータ取得が進んでいます。その進行に合わせて、多階層統合解析共有プラットフォームを利用した解析を進めます。