成果概要

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複雑臓器制御系の数理的包括理解と超早期精密医療への挑戦[2] 複雑臓器制御系への実験的アプローチ

2025年度までの進捗状況

1. 概要

本研究開発項目は、以下の3つの主目的を有しています。

  1. 動物モデルおよびヒト臨床検体等の経時的な未病データセットの取得と、未病DB(GakuNin RDM)への登録。
  2. DNB理論や制御理論などの数理科学的手法と生物学的手法の融合による未病に関する医薬学研究の実施。
  3. これらの研究成果を基盤とした、未病前状態・未病状態での医療介入に基づく超早期精密医療の社会実装。

2. これまでの主な成果

①  ヒト・メタボの疑似時系列内臓脂肪組織シングルセル解析および血液のマルチオミックス解析

定量解析に供する「脂肪組織の各種細胞の核を用いたシングルセル解析手法」を確立し、健常者から肥満型糖尿病までの患者を疑似時系列として5段階に分け、82名から採取した内臓脂肪組織のシングルセルデータを取得しました。これは世界的に過去最大規模のデータセットであります。さらに、内臓脂肪量、各種血液パラメータなどの臨床情報とゲノム情報と共に血液のマルチオミックス解析データ(全miRNA解析、プロテオーム解析、メタボローム解析など)を収集しました。

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内臓脂肪組織シングルセル解析
②  高脂肪食メタボマウスの血液の時系列プロテオーム解析でのDNB信号の検出

高脂肪食メタボマウスの経時的な血中プロテオーム解析から、同期的に揺らぐタンパク群を抽出しました。同期的に揺らぐタンパク質の経時的なDNBスコアを算出したところ、高脂肪食メタボマウスの内臓脂肪組織の遺伝子発現のDNB解析により揺らぎがピークに達する高脂肪食負荷2週目において、同期的なタンパク質の揺らぎのピークが認められました。

図
血液の時系列プロテオームデータのDNB解析
③  健診データのエネルギー地形解析

生活習慣病の早期予防へと繋げるため、富山県の健診データ4928名分(北陸予防医学協会提供)にエネルギー地形解析を適用しました。その結果、糖尿病発症へと至る経路が肥満者と非肥満者で異なる傾向を発見しました(Ito et al. Front. Endocrinol., 2025)。

図
糖尿病発症経路のエネルギー地形解析
④  ラマン顕微鏡を用いた造血器腫瘍の未病状態検出

多発性骨髄腫の未病状態(MGUS)に対するラマン顕微鏡を用いた医療機器開発に関して、2つの進捗を得ました。

  1. 既に出願済みの特願2023-065868を基盤とし、細胞の自動判別機能を有するラマン顕微鏡のプロトタイプ機を企業と共同で作製しました。これらの成果を基に、本装置を医療機器(体外診断用機器)として国内初の届出に向けた準備を進めています。
  2. MGUS患者(28名)および多発性骨髄腫患者(33名)の骨髄形質細胞について、それぞれ1106および890のラマンスペクトルを取得し、未病データベース(GakuNin RDM)へ登録しました。これらのスペクトルを基に、機械学習を用いて高精度な判別アルゴリズムを構築し、現在、特許出願の準備を進めています。今後は、DNB理論やエネルギー地形解析を融合させ、さらなる感度向上を目指します。
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医療機器開発に向けたラマン顕微鏡のプロトタイプ機
⑤  IBDモデルで検出したDNB遺伝子のバイオロジー

研究開発項目111の井村グループと連携し、制御理論解析から絞り込んだDNB遺伝子Warsが、炎症性腸疾患(IBD)モデルマウスの病態進展に対して保護的に働く可能性を示してきました(特願2024-056194)。そこで、WarsがIBDの病態を改善する分子機序について解析した結果、WarsはIBDの病態形成に深く関与する炎症性サイトカインであるIL-23およびTNF-αの発現を強く抑制するとともに、抗炎症性サイトカインであるIL-10の発現を顕著に亢進させることが明らかになりました。さらに、IBD患者の再燃前後に時系列で採取された大腸組織生検サンプルを用いた臨床研究について、現在、倫理審査申請を進めています。

3. 今後の展開

成果①に関してはマウス並びにヒト内臓脂肪組織シングルセルデータを中心に統合解析を行い、経時測定可能なメタボの未病バイオマーカーを同定する予定です。また、2025年度から開始した企業健診コホートで健診データを前向きに検討し、さらに弘前大学との共同研究で岩木健診コホートのデータを活用して、臨床医学的にメタボの未病を捉える予定です。成果②に関してはヒト血液データと比較検討することによりヒト未病バイオマーカーへと外挿していく予定です。成果③に関してはメタボの未病状態での医療介入のための新規生活習慣改善プログラム作成へと発展させる予定です。成果④に関しては、ラマン分光測定装置の改良を行い、社会実装のためのシステムの開発を行う予定です。成果⑤に関してはWarsを含む未病関連因子のIBD病態における役割について、基礎および臨床研究の両面から継続して解明していく予定です。