成果概要

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複雑臓器制御系の数理的包括理解と超早期精密医療への挑戦[1] 複雑臓器制御系への数理的アプローチ

2025年度までの進捗状況

1. 概要

健康状態から疾病状態に至る過程を生体内の臓器間、細胞間、遺伝子間の複雑な階層的相互作用ネットワークにおける状態遷移として捉え、疾病になる直前の未病状態を遺伝子発現量や様々な血液検査項目データ等における「ゆらぎ」に着目して検出する動的ネットワークバイオマーカー(Dynamical Network Biomarker: DNB)理論を提案し、多様な疾病に対して有効性を示してきています。しかしながら、こうした未病状態が検出された際に、疾病の発症を未然に防ぐ「予防・未病治療(超早期治療)」の研究はまだほとんどありません。そこで本研究では、DNB理論を多段階遷移に拡張する理論、DNB理論を補完して健康状態からの逸脱の予兆をより超早期に検出する空間時間情報変換学習理論エネルギー地形解析などの数理手法を開発するとともに、DNB理論と制御理論を融合することにより、未病前状態・未病状態において生体ネットワークに介入(治療)するネットワーク治療を実現する、DNB理論に基づく超早期治療のための介入理論(以下、DNB介入理論と呼ぶ)の構築を目指しています。

図
DNB理論に基づく未病検出と予防・未病治療技術の開発

2. これまでの主な成果

2024度までで、遺伝子発現ネットワークに対するDNB介入理論として、mRNA発現量に縮約した数理モデルをもとにmRNA発現量に対して介入すべき遺伝子候補の導出法の基礎を構築し(特許出願済)、さらにmRNAとタンパク質から成る階層ネットワークモデルに対して拡張したDNB介入理論の基礎を構築してきました。2025年度は、前半の研究総括として、mRNA-タンパク質から成る遺伝子ネットワークモデルに対して、これまで構築してきたDNB介入理論を体系化し、その数理的な基盤を構築しました。具体的には、mRNAへの介入とタンパク質への介入の双方に対して、その介入効果の指標を導出し、その指標を求めるために、mRNAのみ観測できる場合とさらにタンパク質が観測できる場合の遺伝子介入候補を絞る際の関係性を含む一連の結果を、介入すべき遺伝子候補を抽出するアルゴリズムとともに体系化しました。また、臓器間神経ネットワークでのエネルギー代謝調節のためのフィードバック機構の制御因子がDNBノードとなることを化学反応数理モデルの特徴に基づいて証明することに成功しました。
さらに、ネットワーク上で多段階遷移を生じる場合に効率よく次の遷移の予兆を検出する数理解析手法(Nat Comm, 2024)や喫緊の課題であったCOVID-19に関して、日本人集団の重症化遺伝子DOCK2と重症化メカニズム(Nature,2022)やMpoxも含めて感染者の隔離期間の最適化手法(Nat Comm,2022;2024)を解明して社会に貢献しました。
一方、実験検証を可能とする富山大の齋藤G・京都薬科大の林G、データベースシステムを構築している東大の藤原Gと連携して、引き続き、ショウジョウバエを用いたTSODマウス由来DNB遺伝子のスクリーニングを実施し、DNB介入指標によって特定したDDX4の発現抑制によりメタボ抑制を確認しました(Cells, 2025)。炎症性腸疾患マウスの遺伝子発現データに対しても、当該マウスに対してタンパク質介入による実験を行った結果、2つの遺伝子に対して本手法の有効性を示すことができました。また、肺癌マウスにおける多段階状態遷移の実証にも成功しました(Nat Comm, 2024)。これらのマウスモデルの成果を基にして、現在は血液など計測が容易なヒトデータの解析への拡張を実験・臨床研究グループと連携して積極的に進めています。

図
エネルギー代謝調節におけるDNB解析

3. 今後の展開

DNB理論に基づく介入理論として、mRNA-タンパク質から成る階層ネットワークに対してmRNA/タンパク質に介入し安定した健康状態に戻す介入理論を構築しました。今後は、CRISPR介入方法に対して、さらにscRNA-Seqデータを用いた場合に対して本理論を拡張し、より確度の高い手法を構築することなどが課題となります。また、DNB 理論とそれを補完する健康状態からの逸脱予兆信号検出理論、さらには最新のAI技術を統合して、個別の疾病を越えて、ムーンショット目標2横断的に汎用性のある超早期の予防・未病医療システムの開発を目指して、様々な数理データ解析・数理モデル解析研究が大きく進展しています。